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ユーモアの鎖国02

时间: 2020-04-24    进入日语论坛
核心提示:山王下東京都が市であったのは、それほど古いことではない。走っている電車を市電と呼んだ。路線によって電車の型が違って、いち
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山王下

東京都が市であったのは、それほど古いことではない。走っている電車を市電と呼んだ。路線によって電車の型が違って、いちばんちいさいのに、運転台が客車の外に付いている、雨降りには雨も吹き込みそうなのがあった。うしろの車掌が出発信号に紐を引くと、前の運転手にチンチンと合図が行く。三原橋と飯田橋の間を往き来するのがそのチンチン電車であった。途中、赤坂山王下という所を通る。昭和はまだひとけただった。私の家から山王下まで小学生の足で十分とはかからなかったろう。けれど二十分ぐらいかかると思っていた。ふだんの行動半径を出はずれた、そこは遠い場所だったのである。現在は片側にビルディングが建ち並び、そこで少し彎曲《わんきよく》した通りを前よりもせまい、谷のような感じにして、おびただしい自動車が流れている。
今は昔の、同じ舗道に夜がひとつ、電柱が一本、女の子がひとり立っている。うしろに黒板塀の料亭があった。一停留所向こうから電車の灯りが見えて、近づいてくる。目がいっぺんに光る。身動きしないでじいっと降りてくる人を待つ。ひとり、ふたり……客を降ろし終えて行ってしまうとあたりは静かになる。するとまた次の電車を待つ。とても間遠であった。六台も七台も待つ。もう帰ろう、あと一台来たら。その一台が行ってしまっても、また待ってしまう。寒い季節だったと思う。そうでなくても八時、九時と立っている間にからだが冷えてゆくのを感じた。何年生であったか覚えていない。自分をいちばん可愛がってくれていた祖父がどういう事情でか、しばらく家を離れていた。その祖父の帰りが待ち遠しくて、夜になるとあてもなく迎えに出かけた。
待つものはたいていあらわれないで、父や義母、弟妹たちのいる家へ戻って行った。その戻ってゆくうしろ姿を知らない。いまも歩き続けている自分の、うしろ姿を私は知らない。ただ、人生なかばを遥かに過ぎて、このごろ古い一枚の写真を取り出して見るように、夜の電停にじっと立っている少女を思い浮かべる。そこに私の一生の原型、何かを待ち通しに待つ、という姿があったのではないか、と。
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