「死ぬまでに、もういちど何が食べたい?」。健康で、娘ざかりで、しかも春で。許婚者も、恋人も、みんな戦争につれて行かれて。話すことというと夢。それも食べものの夢。「クリームパンが食べたいわ」と私が言っても友だちはひとりも笑いませんでした。お米も塩も、味噌も、まるで乏しくて。職場が、働く者に配給してくれた栄養剤。薬と知りながら空腹のあまり、一カ月分を二日で食べてしまったこともありました。平和がよみがえり、やがてパン屋さんの店先にクリームパンも並びましたが、どういうわけか、私の夢みた、二つに割るとクリームがとろりとこぼれそうになる、おいしいパンはあらわれませんでした。
忘れられないことがひとつ。みんなが飢えて戦っているときでもたくさんの物資が「あるところにはある」といううわさがありました。