太平洋戦争が終わったあと、東京丸の内のとある町かどで、二人の婦人が靴みがきをはじめました。それがもう二十年以上になります。はじめたとき四十歳前後だったでしょうか。おばさんたちは歩道に正座し、私はその横を通りすぎる。
いつでしたか、ビルの地下にあるおそばやさんで私がモリソバを食べていると、おばさんのひとりが店にはいってきて、前に腰かけました。はこばれてきたのはタヌキソバ。箸《はし》をとったおばさんは、下を向かなくともどんぶりのへりが口のへんに届いてしまうほど、靴をみがく時のかっこうのまま背がこごんでおりました。
このところそのおばさんの姿が見えません。どうしたのでしょう? 気にかかります。もうひとりのおばさんが日よけに黒い雨傘を立てはじめました。プラタナスは新緑です。