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十二国記037

时间: 2020-08-18    进入日语论坛
核心提示: 三日の旅はすぐに終わって、陽子をすこしものたりない気分にさせた。三日目にたどりついた河西《かさい》の街は、川のほとりに
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  三日の旅はすぐに終わって、陽子をすこしものたりない気分にさせた。三日目にたどりついた河西《かさい》の街は、川のほとりに大きなビルのような姿で現れた。こちらに来てからはじめて見る、都市らしい街だった。
「へえ……。大きい」
 門をくぐりながら周囲を見わたす陽子に達姐《たっき》は笑う。
「このあたりで河西以上に大きい街となると、郷庁《ごうちょう》のある拓丘《たっきゅう》ぐらいしかないね」
 郷とは県の一段階広い区分らしい。それがどのていどの規模のものなのかは、よくわからない。達姐もあまりよくは知らないようだった。役所といえば里の里庁、ちょっとおおごとで県庁、それで用がたりるらしい。
 門を入った目抜き通りには、大小の店が軒を連ねている。これまで通過してきた里とはちがって店の構えも豪華で大きく、その光景は中華街を思わせた。大きな建物の窓にはガラスが入っているのがひどく印象に強い。夕刻にはまだかなり早く、通りに人の姿は少なかったが、旅人が駆け込む時間帯になれば人でごったがえすのだろうと、想像がついた。
 この活気ある都市で生活することになるのだと思うと、すこしだけ気分がよかった。どこかで落ちつけるのなら里でも不満はないが、にぎやかな街ならなお良いことは言うまでもない。
 達姐は目抜き通りを折れて、一回り小規模な店の立ちならぶ一郭《いっかく》に足を向けた。どことなくうらびれた風情《ふぜい》はあったが、やはりにぎやかなことに変わりはない。軒《のき》を連ねた店のうち、達姐は比較的立派な建物に入っていった。
 建物は緑の柱が鮮《あざ》やかな三階建ての建物だった。大きな戸口を入った一回は広い食堂になっている。華やかな店構えを見回す陽子をよそに、達姐は対応に出た従業員らしき男をつかまえた。
「女将《おかみ》さんを呼んでくれるかい。娘の達姐が来たと言ってくれりゃ、わかる」
 男は満面に笑みを浮かべて、奥へ消える。達姐はそれを見送って陽子を手近のテーブルに座らせた。
「ここに座っておいで。なにかもらおうね。ここのものはけっこうおいしいよ」
「……いいんですか?」
 これまで入ったどんな宿よりも食堂よりも、この店は大きい。
「かまうもんか、おっかさんのおごりだ。なんでも好きなものをおあがりよ」
 そうは言われても、陽子にはまだ献立がよくわからない。それを察したように達姐は笑い、店員を呼んで二、三の品を注文する。店員が頭を下げてさがったところで、店の奥から老婆といっていい年頃の女が現れた。
「おっかさん」
 達姐は立ちあがって笑みを浮かべる。老婆がそれに嬉しげな笑顔でこたえた。陽子はそれを見守って、気のよさそうな人だと安堵《あんど》する。彼女が主人ならそんなにつらい仕事ではないだろう。
「陽子はここで待ってておくれね。あたしはおっかさんと話をしてくる」
「はい」
 陽子がうなずくと達姐は笑って母親のもとに駆けよる。ふたりは背中を叩きあって笑いあい、そうして店の奥に消えていった。陽子はそれをなんとなく微笑《ほほえ》んで見送り、達姐がおいていった荷物を手近に引きよせて店の中を見わたした。
 どうやら今店の中には女の店員はいないようだった。テーブルのあいだを飛び回っている店員はぜんぶが男で、客もまた男が多い。そのうちの何人かがうかがうように陽子のほうを見ているのに気がついて、なんとなく陽子は落ちつかない気分になった。
 すこしして入ってきた男の四人連れは、陽子の近くのテーブルに陣取って露骨に野卑な視線を向ける。何事かを囁《ささやき》きあっては笑うのがどうにも居心地が悪かった。
 店の奥に視線を向けても、達姐が戻ってくる気配はない。しばらくはじっとがまんしていたが、四人組のうちひとりが立ちあがって陽子のほうに歩いてきたのを認めてがまんがならずに立ちあがった。
 声をかけてこようとした男を無視して陽子は店員をつかまえる。
「あの……達姐さんはどこに行ったんでしょうか」
 店員はただそつけなく奥を示した。行ってみてもいいということだろうかと考えて、陽子は荷物を抱えて奥に向かう。とめる者は誰もいなかった。
 奥の細い廊下をたどっていくと、いかにも店の裏舞台らしい雑然とした一角に出た。なんとはなしにうしろめたくてそっと奥へ歩いていくと、きれいな彫《ほ》り物をしたドアが開いていて、なかを隠すようにすえられた衝立《ついたて》の向こうから達姐の声が聞こえた。
「そうオドオドおしでないよ」
「だっておまえ、手配されてるあの海客なんだろう」
 陽子は足を止める。老婆はどうやら、しぶっているような音声だった。急に不安が首をもたげた。やはり海客では雇ってもらえないのだろうか。
 お願いします、と頭を下げに行きたい気がしたが、それは出すぎたまねというものだろう。かといって店に戻るのは心細くてできない。
「海客がなんだい。ちょいとこちらに迷いこんだだけじゃないか。悪いことがおこるだの、そんな迷信をおっかさんも信じてるのかい」
「……そういうわけじゃないが、役人に知れたら」
「だまっていればわかりゃしないさ。あの子だって自分から言いやしないよ。そう考えりゃ滅多にない掘り出しものだろう? 器量だっていいし、年頃だって手ごろなんだからさ」
「けどねぇ」
「育ちだって悪くないようだ。ちょっと客のあつかいを教えれば、すぐにでも店に出せる。それをこれだけで譲ろうってんだ。どうして迷うのさ」
 陽子は首をかしげた。達姐の口調はなにかがおかしい。立ち聞きはいけないことだと思いながらも耳をすますことをやめられなかった。耳にひそかな音が聞こえはじめる。潮騒《しおさい》に似た、かすかな音。
「だって海客じゃ……」
「あとくされがなくていいじゃないか。親や兄弟が怒鳴りこんでくることもない。最初からいない人間と同じなんだから、いろいろと面倒も減るだろう?」
「……それで、あの子はほんとうにここで働く気があるのかえ」
「あるって本人が言ったんだ。あたしはちゃんと宿だって言った。下働きかなにかだと勘ちがいしてるなら、そりゃあの子がバカなのさ」
 陽子はただ声に聞き入る。なにかがひどくおかしい。「あの子」とは陽子のことだろう。なのにこれまで陽子を呼ぶときにこめられていた温かみが、かけらも感じられなかった。どうしたというのだろう。声の主は達姐でないかのようだ。
「でも」
「緑の柱は女郎宿《じょろうやど》だと決まっている。それを知らないほうが悪い。──さ、分別をつけて代金をおよこし」
 陽子は目を見開く。ただ荷物を抱きしめて衝撃をやり過ごした。
 あの猿はなんと言った。どうして自分はあの忠告にもっと真剣に耳を貸さなかったのだろう。
 衝撃でか怒りでか、鼓動が振りきれるほど速い。押し殺した息が熱く喉を焦《こ》がして、耳を聾《ろう》するほど荒々しい海鳴りの音がする。
 そういうことだったのか、と右手に持った布を巻いた包みを握りしめた。
 一瞬のあとには力をゆるめて、かわりにそっときびすを返す。細い廊下を逆にたどり、なんでもない顔を装って店を横切り、外に向かった。
 足早に戸口を出てもう一度見あげた店は、柱や梁《はり》や、窓枠までが緑の塗装をほどこされている。その毒々しい様式に、やっとのことで陽子は気づいた。腕には達姐の荷物を抱えたままだったが、帰しに戻る気にはもちろんなれなかった。
 計ったようにそのときに二階の窓が開いた。バルコニー風になった窓の、飾りをほどこした手すりに女がもたれて外を眺める。艶《あで》やかな着物はしどけないほど大きく衿《えり》が開かれて、その女の身上があきらかだった。
 陽子はひとつ震えた。どっと嫌悪が浮かんだ。見あげる視線に気づいたように陽子を見おろした女は、小バカにしたような笑みを浮かべて窓を閉めた。
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