夜毎に奇妙な幻が訪れ、家がなつかしくて落ち込んだし、あの蒼《あお》い猿《さる》も訪れては陽子を不安にさせたが、せつない気分は長続きしなかった。
朝起きて里を出れば珍しいものばかりだったし、達姐はこれ以上にないほど親切にしてくれた。珠《たま》の力を借りれば歩きつづけることに苦労はない。夜にはちゃんと食事ができ、ちゃんとした宿で眠れるとわかってればなおさらだった。
故国を離れたことはつらいが、少なくとも今は親切な保護者がそばにいてくれる。めぐり会わせてくれた好運に感謝せずにおれなかった。