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十二国記039

时间: 2020-08-18    进入日语论坛
核心提示:「だからオレが言ったろう」 夜の中、街道に立った石碑の上に蒼《あお》い猿の首がある。 河西《かさい》を出た陽子は、わずか
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 「だからオレが言ったろう」
 夜の中、街道に立った石碑の上に蒼《あお》い猿の首がある。
 河西《かさい》を出た陽子は、わずかに迷ってから街道を先に進んだ。
 ひとりの旅に戻ったわけだが、陽子には結果として奪ったことになる達姐《たっき》の荷物がある。
 荷物には達姐の着がえと財布が入っていた。財布のなかには宿も食事も最低のランクへ落とせば、しばらく旅ができそうなほどの金銭がある。それをつかうことに良心の痛みは感じない。
「忠告してやったのにサァ。バカな娘だぜ」
 陽子は猿を無視する。無言で歩いていくと、すべるようにして蒼く燐光《りんこう》を放つ首がついて来た。高笑いを続ける猿を陽子は視野に入れない。だまされた自分をおろかだと思うから、今は猿の声を聞きたくなかった。
 そして、猿の存在よりも気にかかるのは、河西で見た金髪の人物と街なかに現れた妖魔のことだった。
 ──妖魔は人里には出ないのではなかったろうか。
 少なくとも達姐はそう言っていた。それは珍しいことだと。
 ──妖魔は昼には出ないのではなかったろうか。
 夕方、あるいは昼間。妖魔がその時間に現れたのは、河西の巨虎、馬車を襲った犬のような妖魔、学校に現れた蠱雕《こちょう》、それだけだった。
 ──かならずそこにケイキがいるのはなぜ?
 思ったところで猿のかんだかい声が耳に刺さる。
「だからおまえは、だまされたんだってばヨォ」
 これを無視することはできなかった。
「ちがう!」
「ちがわねぇサァ。よぉく考えてみろよ。おまえもおかしいと思うだろう。エェ?」
 陽子は唇をかんだ。ケイキを信じると決めた。信じなければすがるものを失ってしまう。なのに、どうしても迷いが生じる。
「おまえはだまされたんだ。はめられたんだよ。あいつにサァ」
「ちがう」
「そう言い張りたい気分はわかるけどよォ。ちがってくれねえと、困ったことになるからなァ」
 猿はそう言って哄笑《こうしょう》する。
「ケイキは蠱雕《こちょう》から守ってくれた。ケイキは味方だ」
「そうかい? こっちに来てからは、とんと助けてくれねえなァ? あのときだけだった気がしねえかい?」
 陽子は猿をまじまじと見る。まさか、あちらでのことをこの猿は知っているのだろうか。そんな口調なのが不思議だった。
「あのときって?」
「あちらでヨォ、蠱雕に襲われたときさ」
「どうして、あのときのことをあんだが知ってるの?」
 猿は高笑いする。
「オレはおまえのことなら、なんでも知っているのサァ。おまえがケイキをうたがってるのも知ってる。それを否定しようとしているのもな。信じたくねえよなァ。あいつにはめられたなんてヨォ」
 陽子は視線をそらせて暗い街道を見つめる。
「そんなんじゃ、ない」
「だったらどうして助けに来ないんだ?」
「なにか事情があるんだ」
「どんな事情があるんだ? おまえを守ってくれるんじゃなかったのかい? ──よぉく考えてみなよ。罠《わな》だよ、ナァ? わかるだろう?」
「学校でのことはともかく、あとの二度ははっきり顔を見たわけじゃない。あれはケイキじゃないに決まってる」
「金の髪がほかにいるのかい」
 ──聞きたくない。
「ジョウユウも、ケイキだって認めたんじゃなかったのかい?」
 なぜ、ジョウユウを、知っているのか。そう思って見つめる視線と、猿の嘲《あざける》るような視線がぶつかった。
「オレはなんでも知ってるんだ。そう言ったろう」
 タイホ、という声がよみがって陽子は頭をふった。たった一言にこめられた驚愕《きょうがく》した調子が忘れられない。
「──ちがう。なにかのまちがいだ。ケイキは敵じゃない」
「そうかナァ? ほんとうにそうかナァ? そうだといいなァ」
「やかましい!」
 叫んだ陽子を天を仰いで笑って、猿は囁《ささや》く。
「ナァ、こう考えてみる気はねえかい?」
「聞きたくない」
「……ケイキが妖魔をおまえに差し向けているんだ」
 陽子は立ちすくんだ。目を見開いて凝視する陽子を、猿は口元をゆがめてながめる。
「……ありえない」
「どうだかなァ」
「そんなことをする、理由がないじゃない!」
「そうかい?」
 猿はゆがんだ笑いを浮かべている。
「ケイキがどうして、そんなことをするわけ? 蠱雕《こちょう》から助けてくれたのはケイキなんだよ? この剣をくれて、ジョウユウを憑《つ》けてくれた。おかけであたしは、生きていられる」
 きゃらきゃらと猿はただ笑う。
「あたしを殺したいんなら、あのとき、ほうっておけばよかったんじゃない」
「自分で襲わせておいて、それを助けて仲間になる。そういう手もあるけどナァ」
 ぎり、と陽子は唇をかんだ。
「それでも、ジョウユウがいるかぎり、そう簡単にやられたりしない。あたしを殺したいんなら、ジョウユウを呼び戻すなり、なにかするはずだよ」
「殺すのが目的じゃねえのかもナァ」
「だったら、なにが目的?」
「さてなァ。そんなことはそのうち分かるさ。これからも襲撃が続くんだからよォ」
 陽子はその笑いを浮かべた顔をねめつけて、そうして足を速める。
「帰れねえよ」
 声が追いかけてきた。
「おまえ、帰れねえよ。おまえはここで死ぬんだ」
「いやだ」
「いやがることはねえだろう? ──痛みなら一瞬ですむんだぜ」
「うるさい!」
 陽子の叫びは夜の中に吸い込まれていった。
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