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十二国記085

时间: 2020-08-19    进入日语论坛
核心提示: 楽俊はちゃんとした宿をとるべきだと主張したが、陽子はそんな無駄をすることはないと主張した。「仮にも景《けい》王をこんな
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 楽俊はちゃんとした宿をとるべきだと主張したが、陽子はそんな無駄をすることはないと主張した。
「仮にも景《けい》王をこんな安宿に泊められるかい」
「わたしが景王だなんて、楽俊がひとりで言ってることだ。楽俊は友達だからいちおう言い分を信じるけれど、確かにそうだと決まったわけじゃない」
「確かにそうだと決まってら」
「だとしても、関係ない」
「……なあ、陽子」
「わたしが持ってる路銀じゃ、このくらいの宿が分相応だ。役所から呼び出しが来るまで、どれだけの日数がかかるかわからないんだし、高い宿に移って日数が延びたら宿代を払えない」
「おまえは景王なんだから、払えないはずがねえだろう。だいいち、王から宿代をとる亭主がいるもんかい」
「だったら、なおさらここでいい。泊まって代金を払わないなんてフェアじゃない。ましてや、最初からそれをあてにするのはいやだ」
 そんな口論のすえに選んだ宿は、格で言うなら下の上だった。四畳ていどの小部屋だが、ちゃんと寝台がふたつある。中庭に面して窓があり、窓の下には小さなテーブルまですえてある。そんな部屋に自分の金で泊まれるのだから、陽子にとってこれ以上|贅沢《せいたく》なことはない。
 祠《し》から帰るとすでに夕刻で、とりあえず部屋で湯を使い、服を着替えてそれまで着ていたものを洗濯する。毎日湯を使って、着替えられるのだから、ほんとうにこれ以上の贅沢はなかった。
 食堂に降りてそこで待っていた楽俊と食事をとった。立ったまま屋台で食べるのではなく、ちゃんとした食堂でたべられるのだから、これだってかなりの贅沢だと思う。ゆっくりお茶を飲んで、そろそろ部屋へ戻ろうかと言っていた矢先だった。
 ──宿の表で悲鳴が聞こえたのは。
 尋常《じんじょう》でない悲鳴に陽子はとっさに剣をにぎる。かたときも剣をそばから離さない癖《くせ》だけは、どうしても身にしみついて落ちなかった。柄《つか》をにぎって表に飛び出すと、通りの向こうがざわめいてる。遠くの角で道をいく人々があわてふためいて逃げるのが見えた。
「──陽子」
「まさか、ここまで」
 なんとはなしに妖魔は雁《えん》国にまでは追ってこない気がしていた。よく考えてみれば確たる根拠があったわけではない。
 そもそも雁国には妖魔が少ない。夜には宿をとり、昼間だけ歩く旅だから妖魔に会わないのは当然だが、陽子の敵は夜に山の中で出会う妖魔ばかりではなかったはずだ。ひょっとしたら今日まで襲撃を受けずにすんだのは恐ろしく好運なことかもしれなかった。
「楽俊は宿のなかにいて」
「けど、陽子」
 逃げる人々の悲鳴の色に陽子は聞き覚えがある。最大級の悲鳴。それは命を危険に曝《さら》された者のあげる声だ。悲鳴に混じって赤ん坊が泣き叫ぶような声が聞こえた。これは必ず妖魔の声だと、陽子はそう学んでいる。
 手に下げた剣を抜いて、鞘《さや》を楽俊におしつけた。
「楽俊、さがってて。お願い」
 返答はなく、ただそばにいた楽俊の気配が離れるのを感じた。
 どっと人の波が押し寄せて、陽子はその向こうに小山のような黒い影を見た。恐ろしく大きな虎《とら》に似ている。バフク、と誰かが叫ぶのが聞こえた。
 陽子はにぎった剣の切っ先を下げたままかるく構える。刀身が左右の店のあかりを受けてきらめいた。駆けてきた人々がぎょっとしたように左右に割れる。
 人々をなぎ倒しながら駆けてくる巨大な虎。その背後に、大きな牛に似た生き物が見える。
「二頭……」
 少し身体が緊張する。久しぶりの感覚に恐怖よりも奇妙な高揚感がある。
 路地を逃げまどう人々が左右の店に転がり込んで、敵との間があいた。かるく走って勢いをつけ、剣を構える。
 最初は虎だった。跳躍するようにして飛び込んでくる巨体をぎりぎりでかわして、切っ先を大きな頭の後ろに突き立てる。抜きざま構えなおしてさらに突っこんでくる青い牛に振りかぶった。
 身体が大きいので止《とど》めを刺すのに手間がかかるが、数は少ないので造作はない。余裕をもって二頭を相手にしているところに突然楽俊の声が響いた。
「陽子、キンゲン!」
 ふと顔をあげると鶏大の鳥が群れをつくって飛んでくるところだった。十か、二十か、実数は分からない。
「刺されるな、毒がある!」
 楽俊に言われて陽子はかるく舌打ちをする。小さく、速く、数がある。やっかいなことになった。鳥の尾は鋭利な小刀の形をしている。二羽を斬《き》り落とし、虎に止めを刺した。
 足元を取られないよう、死体の脇を駆けぬけて宿屋を背に足場を探す。二太刀を受けた青牛は狂ったように暴れている。足元の石畳は妖魔の血で滑りやすい。
 狭い、あかりのとぼしい路地、しかもまだ群れをなしている鳥。左右の店からもれる灯火しか、たよりにするものがない。なまじあかりがあるから、かえって暗がりの闇が深かった。鳥は気がつけば間近にいる。暗闇からふってわいてくるように思われた。
 頭を突きあげてくる青牛をかわし、さらに一羽の鳥を落としたところで、錆《さ》びた金属がきしむような奇声が無数に入り乱れて近づいてくるのが聞こえた。
「まだいるのか……っ」
 背筋に汗が浮いた。
 鳥に気を取られて即座に止めを刺せなかった青牛は、やっかいな相手と化している。路地の入り口から流れこむように猿《さる》の群れがやってくるのが見えた。
 それに一瞬気を取られた。気がついたときには目の前に鳥の鋭利な尾があった。よけることしかできずに身をかわして、構えを失ったところに次の一羽が来た。その尾はまっすぐ陽子の目を示していた。
 これは避けられないという確信があった。
 ──毒。どのていどの毒だろうか。
 ──それより目が。
 ──見えなくては、戦えない。
 ──腕でかばってもまにあわない。
 一瞬にも満たないあいだの思考。本当に瞬《まばた》きする間もありはしない。
 ──だめだ。刺される!
 目を閉じようとしたときに、突然向かってきていた鳥が消失した。
 誰かが横から鳥を叩き落したのだった。
 それが誰だか確認する間もなかった。
 さらに襲ってきた鳥を斬り捨て、突進してきた青牛をかわす。かわしたその牛の後頭部を誰かが鮮《あざ》やかな手つきで突きとおした。あまりの鮮やかさに気をとられた陽子に突っこんできた鳥を、その誰かが引き抜いた剣で薙払《なぎはら》う。
 陽子よりは頭ひとつはゆうに大きい男だった。
「気を散じるな」
 男は言って、最後の鳥を無造作に切り捨てる。
 うなずくと同時に襲いかかってきた猿をたたきつけるように斬り捨て、そのうしろから飛びたしてきた次の一頭を突き通し、陽子は速やかに戦闘のなかに没頭していく。
 男の腕は陽子よりも数段たしかで、しかも腕力が桁《けた》ちがいだった。群れの数は多かったが、路地が死体で埋まり静まりかえるまで、いくらの時間もかからなかったように思えた。
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