よくよく考えてみると、私はほとんどファンタジーを読みません。読んだと胸を張って言えるのはルイスの「ナルニア国物語」とゼラズニアの「アンバー・シリーズ」だけだったりするのです。
困惑《こんわく》して辞書を引いてみると、どの辞書にも「夢のような幻想の物語」と、まるで「幻想小説=ファンタジー小説」であるかのような書き方です。しかし、「ファンタジー」といわれたときに、幻想小説を思い浮かべるのはちょっと違う気がします。
結局、なんなのかよくわからなくて、首をひねったあげく、「異邦または、異邦人の物語」と勝手に決めることにしました。
「邦」といわれたときに、江戸を思います。「異邦」と言われたときには、まっさきに中国を考えます。その理由がなんなのかは、じぶんでもよくわかりません。
──そういうわけで、異邦である中国の物語を書こうと思いました。
実在の中国ではありません。山海経《せんがいきょう》のせかい、緯書と道教の世界です。悪鬼《あっき》魍魎《もうりょう》と神仙の世界です。「西遊記」や「水滸伝」や「封神演義」から受け取った幻の中国です。
異世界の話を書けば資料もいらないし、きっと楽だろうなと思ったのに、そういう安易なことを考えるから、結局山のような資料を積み上げるはめになってしまいました。
実は、これが一年前の話です。
他社の話で恐縮ですが、昨年、このように考えて自己流のファンタジーをひとつ書きました。それは現実にまぎれこんだ異邦人の物語です。今回、異邦にまぎれこんだ現実の人間の話を書きました。そういうわけで、この物語は昨年書いた物語の続編であり、本編です。[#入力者注:他社で書いたファンタジーとは新潮社刊「魔性の子」を指すと思われる]
幸いにして、前回の物語と同じく、山田章博《やまだあきひろ》さんにイラストをお願いすることができました。あとがきを私信に使うことはしたくないのですけど、今回だけはこの場を借りてお礼を言わせてください。山田さん、ほんとうにありがとうございました。
そして、この本を読んでくださった(上巻の暗さにもメゲず)読者の皆様には、とくにお礼申しあげます。少しでも楽しんでいただければ幸いです。