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十二国記104

时间: 2020-08-24    进入日语论坛
核心提示: 思いのほか力のある手に支えられ、小さな家にたどりついてからあとのことを、陽子は覚えていない。 何度か目を覚ましてなにか
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 思いのほか力のある手に支えられ、小さな家にたどりついてからあとのことを、陽子は覚えていない。
 何度か目を覚ましてなにかを見たような気もするが、それがなんだか思い出せるほど、はっきりと風景をつかむことはできなかった。
 深い眠りと浅い眠りを交互にくりかえしてようやく目覚めると、陽子は粗末な家のなかにいて、寝台に横になっていた。
 ぼんやりと天井を見て、それからあわてて身体をおこす。とっさに寝台を飛び降りて、その場にへたりこんだ。陽子の足はまったく使いものにならなかった。
 狭《せま》い部屋のなかには誰の姿もない。まだ目眩《めまい》のする目でそれを確認すると、必死で這《は》って寝台の周囲をあらためた。家具らしい家具はほとんどない。かろうじて枕元に板を組み合わせただけの棚があってその上に、畳んだ布、ひとふりの抜き身の剣と青い珠《たま》がきちんと揃えておいてあった。
 陽子は力を抜く。なんとか立ちあがって珠を首にかけ、剣と布を取りあげて寝台に戻った。布を巻いて剣を布団のなかに引っぱりこむ。それでやっと安心した。
 その段になってようやく、陽子は自分が寝間着に着がえているのに気づいた。
 あちこちの怪我《けが》もぜんぶ手当てされている。横たわった肩の下に湿《しめ》ったものがあって、取りあげてみるとそれが水に浸した布だとわかる。置きあがったときに気づかぬまま落としたのだろう。それを額にのせると気持ちよかった。厚い布を重ねた布団を引っぱりあげ、珠をにぎって目を閉じる。安堵の深い息を吐いた。助かってしまうと、こんな貧しい命でも惜《お》しい気がする。
「目が覚めたか?」
 飛び起きて声のしたほうをふり返ると、灰茶の毛並みをした大きなネズミが立っていた。ドアを開けて部屋のなかに入ってくる。片手にトレイのようなものを、もう片手には手桶《ておけ》をさげていた。
 警戒心が頭をもたげた。人のように暮らし、人のようにしゃべるかぎり、獣のように見えても油断はできない。
 その姿を凝視《ぎょうし》する陽子の前で、監視する視線には気づかないようにネズミはのんきな足どりで歩く。テーブルにトレイをのせて、手桶《ておけ》を寝台の足元においた。
「熱はどうだ?」
 小さな前肢が伸びる。とっさに見をすくめて陽子が逃げると、ネズミは髭をそよがせてすぐに寝台の上に落ちた布を拾いあげた。陽子がしっかり胸に抱いた布包みに気がついたはずだが、ネズミはなにも言わなかった。布を手桶に放りこみ、陽子の顔をのぞきこむ。
「気分はどうだ? なにか食えるか?」
 陽子は首を横にふる。ネズミは小さく髭をそよがせてからテーブルの上から湯呑《ゆの》みを取りあげた。
「薬だ。飲めるか?」
 陽子は再び首を横にふる。油断してはいけない。それは陽子の生命を危険にさらす。ネズミは首をかしげて、それから湯呑みを自分の口元に運んだ。目の前ですこし飲んでみせる。
「たんなる薬だ。ちょいとにがいが、飲めないようなシロモノじゃねえ。な?」
 言ってさしだされた湯呑みを、それでも陽子はうけとらなかった。ネズミは困ったように耳の下の毛並みをかく。
「──まあ、いいか。どんなものなら口に入れられる? 飲まず喰《く》わずじゃ身体が持たねえ。お茶なら飲めるか? 山羊《やぎ》の乳はどうだ? それとも粥《かゆ》ならたべられるか?」
 だまったまま答えない陽子に、ネズミは困ったようにためいきをついてみせた。
「おまえは三日、眠ってた。どうにかする気なら、そのあいだにしてらぁ。その」
 ネズミは陽子が抱いた布の包みに鼻先を向ける。
「剣だって隠してるぞ。そういうことで、おいらをちょっとだけ信用しねえか?」
 真っ黒な瞳に見つめられて、陽子はようよう抱きしめた剣をはなす。膝《ひざ》の上においた。
「うん」
 ネズミは満足そうな声で言って、手を伸ばす。今度は陽子も逃げなかった。小さな手先が額に触《さわ》って、すぐに離れる。
「まだすこし熱があるけど、だいぶさがったな。落ちついて寝てろ。それともなにかほしい物があるか?」
 陽子は迷って口を開く。
「……水」
「水な。──よかった、ちゃんとしゃべれんじゃねえか。すぐに湯冷ましを持ってくるから、起きてるんなら布団をかぶってんだぞ」
 陽子のうなずくのも見ずに、ネズミはいそいそと部屋を出ていく。短い毛並みにおおわれた尻尾《しっぽ》がバランスをとるように揺れていた。
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