すこし熱めの湯冷ましがおいしかった。湯呑みに何度かおかわりをもらって、それから陽子は器の中をのぞきこむ。ぷんとアルコールの匂いがした」
「……これ、なに?」
「酒に漬《つ》けた桃を砂糖で煮たのだ。それなら食えるだろ?」
陽子はうなずき、それからネズミを見返す。
「……ありがとう」
ネズミは髭を高くそよがせる。頬の毛並みがふっくりと盛りあがり、目がすこし細まって笑った表情に見えた。
「おいらはラクシュンってもんだ。おまえは?」
陽子は迷い、それから名前だけを告げる。
「陽子」
「ヨウコかぁ。どういう字を書くんだ?」
「陽気の陽、子供の子」
「子供の子?」
ラクシュンは不思議そうに首をかたむけてから、へえぇ、とつぶやいた。
「変わった名前だなぁ。どっから来たんだ?」
答えないのはまずい気がして、陽子は迷い迷いしながら答える。
「慶国《けいこく》」
「慶国? 慶国のどこだ?」
それ以上は知らなかったので適当に答えた。
「配浪《はいろう》」
「そりゃ、どこだ?」
ラクシュンはすこしだけ困惑したように陽子を見て、それから耳の下をかいた。
「まあ、そんなことはどうでもいいか。とりあえず寝ろ。薬、飲めるか?」
今度は陽子はうなずいた。
「ラクシュンはどういう字?」
ネズミはもう一度笑った。
「苦楽の楽に、俊敏の俊」