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十二国記121

时间: 2020-08-26    进入日语论坛
核心提示:「あの」 阿岸《あがん》の門前で陽子は旅人をつかまえた。 阿岸の街はなだらかな丘陵地帯を下ったところにあった。丘を下る街
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「あの」
 阿岸《あがん》の門前で陽子は旅人をつかまえた。
 阿岸の街はなだらかな丘陵地帯を下ったところにあった。丘を下る街道からは阿岸の港が一望できる。
 青海《せいかい》と呼ばれる海は本当に青かった。岸に向かって打ち寄せる波が白い。青い透明な海と、阿岸の海岸を抱き込むように延びた半島と、その内海に浮かんだ白い帆と。半島の向こうには真一文字に水平線が見える。地面が平らなら不思議な話だ。
 阿岸の門前ではいくつもの街道が交錯している。街は大きく、出入りする人もまた多かった。雑踏にまぎれこみ、気のよさそうな人物に声をかける。
「すいませんが、雁《えん》国に出る船の乗り方を教えてください」
 初老の男は丁寧にその方法を教えてくれる。船の乗り方とその料金を聞いた。雁国までの船賃は道中に貯《た》めた小金でかろうじてたりた。
「船はいつ出ているんですか?」
「五日に一便だね。いまだと三日待たなきゃならないよ」
 出港の時間までを正確に聞く。ここで失敗し港を封鎖されたらぜんぶが無駄になる。必要なことをできるだけ聞いて、陽子は頭を下げた。
「そうですか。ありがとうございました」
 いったん阿岸を去って、二日を山の中で過ごした。船は朝に出る。前日にもう一度阿岸の門前に立った。
 城門の警戒は厳しい。街で一晩を過ごさなければならないから、どうあっても疑われるわけにはいかない。陽子は布で巻いた剣を見た。今はきちんと鞘《さや》がある。それでも帯刀した旅人は多くなかったから、めだつことは避けられない。
 これさえなければ、そのぶん危険が減る。ずいぶんと考えて巧《こう》国に捨てていこうかとも思ったが、できたらそれはしたくなかった。陽子が妖魔に追われているのなら、これは絶対に必要なものだ。城門の衛士にしても、なにも剣の有無だけで警戒をしているわけではないだろうから、捨てることにそれほどの意味があるとは思えない。
 山で草を刈って剣に巻きつけ。荷物と一緒に布で巻いて一見して剣とは分からない包みを作る。それを抱き、夕刻の街道にうずくまってチャンスを待った。
 道に座りこんですぐ、男が声をかけてきた。
「坊主、どうした」
 中年の男がひとりだった。
「なんでもない。ちょっと足が痛んだだけ」
 男は胡散《うさん》臭げな顔をして阿岸の門へ急いで行った。
 それを見送り、なおもしゃがみこんで待つ。三度目に声をかけられて、目的の相手をとらえた。
「どうしたね?」
 子供ふたり連れた夫婦者だった。
「なんだか……気分が悪くなって……」
 陽子が顔を伏せて言うと、女が体に手をかける。
「だいじょうぶかい?」
 陽子はただ首をふった。ここでこの夫婦の同情を引くことができなかったら、剣をここに捨てて行き、なおかつ危険を冒《おか》さなくてはならない。緊張で自然に冷や汗が浮かぶ。
「だいじょうぶかい? 阿岸は目の前だ。あそこまで歩けるかい?」
 聞かれて陽子は小さくうなずく。男のほうが陽子に肩をさしだした。
「そら、掴《つか》まれ。もうちょっとだからな。頑張れよ」
 はい、とうなずいて片手を男の肩にかける。立ち上がるときに故意に荷物を取り落とした。拾おうとする陽子の手を女が制す。陽子のかわりに拾ってくれてから、子供をふり返った。
「おまえたち、もっておあげ。軽いからね」
 言われて荷物を渡された兄弟は大まじめにうなずいた。
「歩けるかね? 衛士に来てもらおうか」
 言われて陽子は首をふる。
「すみません。だいじょうぶです。連れが先に中に入って宿を取っていますから」
「そうか」
 男は笑った。
「連れがいるんだな。それはよかった」
 陽子はうなずき、ごくかるく男の肩にすがって歩く。肩を貸した男には遠慮しているように見えるよう、周囲の人間にはかるく甘えているように見えるよう。
 門が近づいた。城門の脇に立った数人の衛士が急ぎ足で流れ込む人々を検分している。前を通り過ぎた。視線は感じたが呼び止められなかった。門を過ぎ、少しのあいだ歩いてからようやく陽子は息を吐いた。そっとふり返ると、城門は衛士の顔が見分けられないほど離れている。
 ──よかった。
 胸の中で安堵《あんど》の息をついてから、陽子は男にすがった手を離す。
「ありがとうございました。楽になりました」
「だいじょうぶかい? 宿まで行こうか?」
「いえ。もう、だいじょうぶです。ほんとうに、ありがとうございました」
 深く頭を下げた。嘘をついてすみません、という言葉は胸のなかにしまっておく。
 夫婦は顔を見合わせてから、気をつけて、と言ってくれた。
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