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十二国記134

时间: 2020-08-26    进入日语论坛
核心提示: 陽子はしばらく身動きができなかったし、楽俊にいたっては髭《ひげ》も尻尾《しっぽ》も立てたままで硬直してしまった。 まじ
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 陽子はしばらく身動きができなかったし、楽俊にいたっては髭《ひげ》も尻尾《しっぽ》も立てたままで硬直してしまった。
 まじまじと見つめられたほうは笑う。彼がこの状況を楽しんでいるのは明らかだった。
「……延《えん》王?」
「そうだが。台輔《たいほ》が留守で申しわけないが、俺でも役に立つだろうと思って参じた。それとも台輔でなくてはならんか」
 いえ、と言ったきり陽子は二の句がつげない。彼は薄く笑って、それから杯の中に指を浸した。
「そもそもの話からはじめよう。一年前、慶《けい》国の景《けい》女王が崩御《ほうぎょ》なされた。予王《よおう》と申しあげる。これは知っているか」
「いえ」
 陽子が言うと延はうなずく。
「舒覚《じょかく》、というのが実際の名だ。これの妹に舒栄《じょえい》という女がいる。これがなにを思ったか、勝手に景王を名乗った」
「勝手に……?」
「王には麒麟がいる。王は麒麟が選ぶ。聞いたか?」
「はい」
「予王は麒麟を残した。これが景麒《けいき》だ。景麒のことは?」
「一度、会いました。彼がわたしをこちらへ連れてきたんです」
 延は再びうなずく。
「予王がみまかり、慶国の玉座《ぎょくざ》は空になった。すぐに景麒は王の選定に入った。慶国から景王|践祚《せんそ》の報が入ったのは予王が崩御なされてふた月のことだ。……ところがこれがギオウだとしか思えぬ」
「ギオウ」
 うなずいて、延は酒に浸した指でテーブルの上に「偽王」と書く。
「王は麒麟が選ぶものだ。麒麟の選定なしに王を名乗れば偽王と呼ばれる。王の践祚にはそれに際して様々な奇端《きたん》がある。ところが、舒栄にはそれがない。それどころか、妖魔はうろつく、蝗害《こうがい》はおこる、どう考えても王だとは思えぬ」
「よく……」
 わからない、と聞きかけた陽子を延は手で止める。
「これは偽王だろうということになった。調べてみれば景王を名乗ったのは予王の妹で舒栄という女。予王の妹とはいえ、ただの女だ。王宮には入れず、従って国を動かすこともできぬ。大事はあるまいと思ったのだがな」
 よく把握《はあく》できなかったが、とにかく陽子は耳をすませていた。
「ところがこれが、州侯《しゅうこう》の城に陣を構え、そこから景王即位の報を流させた。国民には真偽を判定する方法がない。言われれば疑う理由があるまいというわけで、あっさり信じた。そうしておいて、諸侯が共謀し、城を封鎖して王たる自分を中に入れぬと言い出した。国民は信じて諸侯を責める。舒栄があえて立って奸臣《かんしん》と戦うと宣じ、新たに官吏《かんり》を募《つの》り、兵を募ると志願者が殺到した」
 言って延は少し渋い表情をする。
「もともと予王の即位までが長く、予王の在位は短かった。国は混乱から立ち直ることができぬままで、諸侯に対する百姓《ひゃくせい》のうらみが深い。九州のうち、すでに三州が偽王軍によって落とされた」
「反論する人はいなかったんですか?」
「いたな。だが、麒麟がおらぬと言えば、景麒は諸侯が隠したと言いはる。そのうち、ほんとうに景麒をさしだしたからたまらない。敵中に捕らわれた景麒を助け出したのだと言って、獣形の麒麟を出されては疑うほうが難しい。これで残った六州のうち、半数の三州が偽王側に寝返った」
「景麒を差し出した……。では、景麒は」
「捕らわれたようだな」
 陽子を探しにこれなかったはずだ。最悪の事態ではないが、最悪に近い事態がおこっていたのだとわかった。
「では、その舒栄という女が陽子に刺客を送っているんですね」
 楽俊が言うと、
「それが、そうもいかんのだ。妖魔が人を襲うという。これはよくあることだ。しかし特定の誰かを追い回して襲うなどということはありえぬ。シレイならば別だがな」
「シレイ?」
「王は宝重《ほうちょう》の呪力《じゅりょく》を使い、麒麟は使令を使う。妖魔を使って誰かを襲わせることができるものがいるとしたら、それは麒麟でしかありえんのだ」
 では景麒のまわりにいた妖魔は景麒の使令なのだ、と陽子はただ納得したが、楽俊は明らかに狼狽《ろうばい》した。
「まさか!」
 延は重い仕草でうなずく。
「ありえぬことだが、ほかに考えられん。景王を襲ったのは麒麟の使令、使令よって召集された山野の妖魔だろう」
「そんな……。じゃあ」
「よくよく考えれば、舒栄が軍を維持できるほどの手づるや金を持っているはずがない。背後で誰かが大量の軍資金を流していると考えるべきだろう。そこへ指令が出てきたとなれば、裏にいるのはどこかの王」
 陽子は延と楽俊を見くらべる。
「……どういう?」
 これには延が答えた。
「麒麟がどういう生き物だか知っているか」
「霊獣で、王を選ぶ……」
「そのとおりだ。麒麟は妖《あやかし》ではない。むしろ神に近い。本性は獣だが、常には人の形をしている。性向は仁《じん》で慈愛の深い生き物だ。孤高不恭《ここうふきょう》の者だが、争いを厭《いと》う。特に血を恐れて、血の穢《けが》れによって病むことさえある。決して剣をもって戦うことはできぬゆえに、身を守るのには使令をつかう。使令は妖魔、麒麟と契約を交わして僕《しもべ》としたものをいう。どう転んでも自らの意志で人を襲わせることのできる生き物ではない。それは麒麟の本性に悖《もと》る」
「それなのに?」
「それなのに、だ。王は麒麟の主人だ。麒麟は決して王には背かぬ。麒麟は断じて人に害意を抱くことのできぬ生き物だが、王が命じれば話は異なる。使令がおまえを襲ったからには、王が麒麟にそれを命じたからに他ならぬ。それ以外はおよそありえん」
「その……舒栄という人が麒麟を飼っているということは?」
「ないな。麒麟は一国に一と決まっている。王を主人に持っているか、王を探しているか、それ以外はない」
 では、ほんとうにどこかの国の王が陽子の命を狙っていたのだ。
 思って陽子は思い出した。
 山道で会った、あの女──。
 妖魔の死を悼《いた》んでいるように見えた。それはあの妖魔が彼女の使令だったからではなかったか。オウムに陽子を殺せと命じられて、泣きながらそれでも逆らえずに刀を振った。もしもあのオウムが王であり、あの女が麒麟だとしたら、すべてのつじつまが合いはしないか。
「でも、どこの」
 ──いったいどの国の王が。
 延はあらぬ方向を見た。
「じきに答えが出る」
「慶王が我々の手の内にあるかぎり、もはや一指も触れさせぬ。問題は景麒だが、仮にも麒麟だ、そうたやすく殺されはすまい。だとしたら、そのうち景王暗殺を命じた王は明らかになるだろうよ。天がみすごすはずがないからな」
「よく、わかりません」
「放っておけばいい。国がかたむくゆえ、誰が命じたのかわかる」
 ただ、と延は言って太く笑った。
「慶国に景麒が捕らわれている。あれだけはなんとしても救い出さねばならん。そのためにも御身を守るためにも、景王には安全な場所に来てもらう必要がある。出発できるか」
「今すぐ、ですか」
「可能ならばすぐに。宿に荷物があるなら、取りに戻るひまぐらいはある。俺の住処《すみか》まで来てもらいたい」
 陽子は楽俊を見る。楽俊はうなずいた。
「行ったほうがいい、陽子。それが何より安全だからな」
「でも」
「おいらのことは気にするな。行け」
 楽俊の言葉に延は声をあげて笑った。
「客人がひとり増えたからといって困りはせんぞ。何しろ古いが部屋だけは腐《くさ》るほどあるからな」
「と、とんでもない」
「不調法者揃いだが、それを気にせぬと言うなら来るがいい。景王もそのほうが気安かろう」
 住処とは関弓《かんきゅう》にある玄英宮《げんえいきゅう》のことだろう。それをどこかの古屋のように言う延に内心|呆《あき》れながら、陽子は楽俊を見る。
「行こう。残していくのはなんだか不安だ」
 楽俊はぎこちなくうなずいた。
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