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十二国記278

时间: 2020-08-30    进入日语论坛
核心提示:「──なぜ漉水を一歩も動かないのだ、連中は」 斡由は部屋の外の露台《ろだい》から漉水を見やった。「まさかああして、集まっ
(单词翻译:双击或拖选)
「──なぜ漉水を一歩も動かないのだ、連中は」
 斡由は部屋の外の露台《ろだい》から漉水を見やった。
「まさかああして、集まってくる民を待っているのか? そんなことをしても訓練も何もない寄せ集めの雑兵《ぞうひょう》集団、あまりに増えればかえって足を引っ張ることが分からんのか」
 それが、と白沢《はくたく》は不審げな表情だった。
「道のり集めた兵卒二万、これを漉水に向かわせ、河岸に土嚢《どのう》を」
「──なに」
「堤《つつみ》を作る肚《はら》のようでございます。かき集めた兵はろくな武器も持っていない様子、それというのも、そもそも築堤のために集めた役夫《えきふ》のようで」
「いまさら堤を作るか? それで機嫌《きげん》をとったつもりか」
「ならばいいのですが。王師が役夫を向かわせているのが、漉水対岸の新易《しんえき》から頑朴下流の州吾《すご》の街にかけて」
 白沢の渋い顔に斡由ははたと視線を上げた。
「まさか──水攻めか」
「そのおそれは多分にございます」
 斡由は眉《まゆ》をひそめる。頑朴は大きく蛇行《だこう》する漉水に取り巻かれている。長い間に築かれた堤がかろうじて水が流れ込むのを防いではいるし、斡由もまた密かに築堤工事をさせていたが、下流をせき止められれば、いくらも保《も》たない。
「ばかな……」
 低地の街だから水攻めの可能性は考えてある。だが、対岸のほうが頑朴よりも土地が低い。増水すればそちらへ溢《あふ》れていくはず、もちろん対岸に堤《つつみ》を築き、それが頑朴の堤の高さを超えれば水は頑朴へ流れこむが、ひとくちに対岸といってもその岸辺の総延長は半端な数ではない。たかだか一万かそこらの軍にできるものかと高《たか》を括《くく》っていたが、二万近くの役夫《えきふ》があれば。
「籠城《ろうじょう》するとして、城内にどれだけの兵卒を引き入れられる」
 雨期の水量は尋常ではない。それが流れこめば野戦《やせん》の準備をしていた頑朴周辺の野はおろか、頑朴の外の農地、へたをすれば頑朴山の基底部までが水没してしまう。
「それよりも問題は兵糧《ひょうろう》でございます」
 城内には兵糧が少ない。収穫期の後とはいえ、溜めこむほどの余剰が元州にはなかった。
「光州《こうしゅう》が出て早期決戦が可能であればと思えばこそ、乱を起こしたのです。光州が動かず、我らだけで事を構えるとなると、長期戦になるは必定《ひつじょう》、しかし長期戦を行うほどの物資が城下にはございません」
 白沢の言葉はどこか非難する調子を含んでいる。
「しかたない、至急近隣から徴収せよ。幸い収穫期の直後だ」
 白沢は顔を歪《ゆが》めた。
「民から租税以上のものを搾取《さくしゅ》するとおっしゃるのですか。民が懐《ふところ》に所有している作物、里庫の中に蓄《たくわ》えられた穀物は、これから民が一年を喰《く》いつなぐためにあるのでございますよ」
 斡由は白沢を冷ややかに見下ろした。
「では、お前は州師に飢《う》えろと言うか」
 白沢もまた傲然《ごうぜん》と斡由を見返す。──気が立っているのだ。死んだ驪媚《りび》の血を浴びて倒れた六太《ろくた》は以来意識が戻らない。一事が万事、元州の期待を裏切ってゆく。
「第一、いまから徴収させても間に合いません。間に合うほどの近隣からあるだけのものを差し出させても、それで果たしてどれだけ保《も》ちましょうか」
 斡由は忌々《いまいま》しげに白沢をねめつけた。
「とにかく集めろ。──それから」
 斡由は控えた官を見渡す。
「断じて堤を作らせてはならん。州師の一部を漉水に向かわせよ」
 お待ちください、と眉《まゆ》をひそめたのは州司馬《しゅうしば》だった。
「すでに州師のほうが王師よりも少ないのです。それを、さらに割《さ》けとおっゃるのですか」
「では、全軍を出すか」
 ばかな、と州司馬はつぶやく。
「兵卒の数をお考えください。すでに王師はわが軍の三倍なのですよ。守城戦に持ちこまねば勝機はありません」
 分かった、と斡由は言い放った。
「雨が降ると同時に密かに州師の精鋭隊を出せ。頑朴上流で対岸の堤《つつみ》を切る」
 これには白沢が色めき立った。
「──何をおっしゃいます!」
「他に方策があるのか!」
 斡由は吐き捨てる。
「頑朴上流で堤を切り、水を新易へ流す。他に手があれば言うがよい」
 気が荒《すさ》んでいるのは斡由も同様である。膨《ふく》れ上がった王師、光州の裏切り、意識の戻らぬ宰輔《さいほ》。なにもかもがことごとく読みを裏切って、斡由の足元を切り崩しにかかっている。
「雨期が来ます。おやめください」
「だから切るのだ! 雨が降ってからでは遅いのだ。対岸に堤を築いて下流をせき止めてしまえば、水は頑朴に向かって流れこんでくるのだぞ!」
「頑朴のために新易を沈めるとおっしゃるのですか。州城は山の上、万一沈んでも大事ございますまい。やめてください。お願いでございます」
「他に手はない。言われたようにせよ!」
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