こうして、パパに買ってもらったBMW318iを乗りまわす、日本医大生とパーティー会場で「運命的な出会い」をしてしまった渋谷派少女の、その後の経過は、いかなるものでしょうか? BMW少年にしてみれば、渋谷派の女のコと仲良くなったら、当然の助動詞�べし�という感じで、
「知り合ったその日のうちに、最後までいかなきゃつまんないよ」
と思っています。そこで、パーティーのあとに、渋谷派が「一度は行ってみたい」と思っている六本木のレストラン「スパゴ」あたりへと食事に誘って、その後はいよいよBMWでドライブにお出かけです。
「じゃあ、横浜まで行ってみようか? でも、山下公園なんて、キミも行ったことあるだろう? 他の男とのデートのことを思い出されちゃ、ボク、つらいもの」
とかいいながら、左ハンドルですから、右手はちゃっかり、彼女のレイヤードヘアをさわっています。女のコは、入学当初に二か月だけつき合った男のコに、夜、山下公園に連れて行かれて、無理やりにキスされ、胸をギューッとつかまれたイヤな思い出があったことを、一瞬、考えるだけですみました。
そうこうするうちに、BMWは「本牧埠頭《ほんもくふとう》」に到着して、日本医大少年は、早くも彼女の耳の裏側に、フーッと息を吹きかけます。いままでのタイプの男のコみたいに、イキナリくちびるを求めてきたりは、しないところが、ミソです。
「キミと一緒にいると、好きになっちゃいそうなんだ」
こんな甘いことばに、渋谷派は、思わずシンデレラに変身してしまいます。
BMW少年の愛撫《あいぶ》は、たんねんで、慌てず急がず、耳たぶ、首スジ、そして鎖骨の上を往復して、またノドから耳の裏へ帰還するという念の入れようで、いままで、聖心女子大や白百合女子大、東京女学館の短大生とつき合ってくるなかで体得したテクニックを、いかんなく発揮します。
左手の指先は、レイヤードヘアのなかに入っていて、軽く髪を梳《す》いています。右手は遊んでいずに背中のほうへまわし、背骨の節目をひとつ、ひとつ、キュッと押していったりもしています。
渋谷派シンデレラは、そうして押されるたびに、ゾクゾクした感覚に襲われ、
「あー、どうしよう」
的な世界になっちゃってます。もーやめられない、止まらない。渋谷派の頭のなかでは、歓喜の悲鳴と一緒に、ジレンマが訪れています。
「ねェ、イヤよ、こんなところで」
といいたいのと同時に、
「このまま、車のなかでフイニッシュまで、一気に進んでほしい」
という体の叫びが、沸《わ》きあがってくるわけです。このあたりを敏感に感じとると、BMW少年は、くちびるにキスしながら、
「もっとほかの場所で愛してあげたいな」
と、ささやくようにいうと、車をスタートさせてしまいます。この間、一度もシートを倒さなかったことに注目すべきだと思います。BMW少年は、
「本牧埠頭は、このところノゾキが多く、リクライニングを倒すと、ヘンなのが周りに集まってきてタイヘン」
であることを、計算に入れつつ、すぐに発車できる態勢をとっているわけです。
さて、横浜というところは、いいホテルがありそうに思えて、その実はない場所なのですが、しいていえば、「ホテル・ニュー・グランド」「横浜プリンスホテル」「ホリデー・イン横浜」そして「ザ・ホテル・ヨコハマ」あたりが、それなりのホテルです。
磯子《いそご》にある「横プリ」は、地理的にいまイチですし、中華街にある「ホリデー・イン」も、ニュートラ派女のコにはそのアメリカ的な良さはわからないでしょう。最も歴史を誇る「ニュー・グランド」もいいですが、BMW少年としては、クラシックなダブルベッドが、あまりにもギシギシと鳴るのは困る、と思ってますから、「ニュー・グランド」と同じように山下公園が見える「ザ・ホテル・ヨコハマ」にチェックインしてしまいます。
このホテルは、ダブルでも一泊二万円以下なので、BMW少年は、
「『センチュリー・ハイアット』や『赤坂プリンスホテル』に比べたら、安いもんだ」
と思っています。一方、いつもは彼のアパートの一室だったり、渋谷の「東急デパート本店」裏手あたりに散在する「ホテル・サンパルコ」とか「ファンタジー」はたまた「ホテル・カサ・デ・ドゥエ」とかのラブホテルでセックスをしている渋谷派としては、もう、夢の世界なわけです。
部屋に入ったら、BMW少年は、まずはもう一度、立ったまま、キスをします。そのとき、彼女の体から、かすかに立ちのぼる「ディオリッシモ」の香りを、彼の鼻が正確にとらえて、内心ニヤつきます。
「まったくよー、医大のパーティーだからって無理しちゃって」
と、スルドく見抜いてしまうわけです。渋谷派少女が、
「もっとステキな男性にめぐりあいたい」
と望んでやまない部分を、文字どおり、嗅《か》ぎとってしまう。ここにも、彼女が夢の世界に漂っている間に「渋谷派の悲劇」が、着々と進行中であることが、見てとれます。
少年の言葉に従って、女のコが先にシャワーを使っている間に、彼のほうはおもむろに「トラサルディ」のバッグから、常備してあるコンドームを引き出して、サイドテーブルの上にある電話の下へ忍ばせます。
入れ替わりにバスルームへ消えたBMW少年を待ちながら、渋谷少女は、もう一度、洋服を付けたままで、ベッドにチョコンと腰掛けています。ところが、少年は、ドアを開けると「超ビキニの水色のブリーフ」をつけて出てきます。
いままでつき合った男のコたちは、シャワーのあとにも、三年前に買った「ボブソン」のジーンズと安手のダンガリーシャツを着てあたふたと出てくると、ぎこちなくキスをしてくるタイプだったので、渋谷派少女は、思わず、目を両手でおおって、
「エーッ」
と声をあげてしまいます。しかし、声をあげながらも、指と指の間から、BMW少年のブリーフの前の「港の見える丘公園」みたいになっている部分を、シゲシゲと見てもいるわけです。このあたりが渋谷派少女の恐ろしさともいえましょう。
そこから先は、少年の腕の見せどころ。とにかくいままでは、
「ただやりさえすればいい」
というタイプの少年とのセックスしか経験がないので、やさしく指先でさわられること、舌の先でペロペロと舐《な》められること、すべてが新鮮で、愛撫されているうちに、
「もう、濡《ぬ》れてきちゃうから、パンティーも脱ぎたいの」
なんて、大胆なことばが、彼女の口から出てきてしまいますね。
少年は内心、
「やったね」
と思いながら、ポーカーフェースで、さらにしばらく愛撫を続けます。三〇分以上も愛撫を続けてから、いよいよドッキングです。けれども、インサートした後も、単純な往復運動のみならず、バリエーションは豊かです。しばしも休まず、両手で胸や背中への愛撫を続行し、舌とくちびるでもあちこちを刺激しながら、頑張っちゃうので、渋谷派少女は、快楽の波間に漂いつつ、頭のなかは、
「カラッポ」
ってなことになっちゃいます。
こうして、BMW少年の徹底的献身的なサービスで盛り上がった、「ザ・ホテル・ヨコハマ」の一夜は、彼のフィニッシュで終了となります。彼にしてみれば、
「別に大好きってわけでもないコとのセックス」
が終わったわけで、当然、渋谷派少女のことも、
「もう、いいや」
と思うことになります。逆に、彼女は、いままで知らなかった、とてつもなくキモチのいい経験を果たし、それが忘れられなくなっちゃっています。
「ねェ、また会ってほしい」
と、スリ寄っていくわけです。