愛とは……いろいろな説明や解釈があるでしょうが、私は愛とは「棄てないこと」だと思っています。愛する対象が——人間であれ、ものであれ——どんなにみにくく、気にいらなくなっても、これを棄てないこと、それが愛のはじまりなのです。
逆に言えば、美しく、魅力的なものに心ひかれるのを普通、われわれは愛とよんでいますが、そんなものは愛ではない。なぜなら美しく魅力的なものに心ひかれるのは、誰でもができる当然の、やさしい行為だからである。愛とは誰でもができる、やさしい行為ではありません。
恋愛の場合だって同じことです。あなたが若く、あなたの恋人が若くて魅力的な時、あなたたちの恋愛は必ずしも「愛」とはよべない。若くて魅力的な青年に心ひかれるのはどんな女性だってできる行為です。それは「愛」ではなく「情熱」とよぶべきなのです。情熱は年ごろの男性と女性とが容易にもつことのできる感情で、愛ではないのです。
愛は男と女とが人生の苦しみも悦《よろこ》びもわかちあい、時にはつきなんとする二人の心の火を忍耐と努力によって一生、消さない時に生れます。二人がみにくくなり、倦怠期《けんたいき》にはいっても情熱のかわりに生の連帯という感情が育《はぐく》まれる時、生まれるのが「愛」なのです。