結婚生活は男女間の情熱の発生をゆるさない場所であること、そして男性と女性との本能的なちがいがしばしば、我々の結婚生活にみえない暗い翳《かげ》を与えている。
こういうことは誰でもわかりきっているのにかかわらず、私はこのどうにもならぬ矛盾を直視しつつ書かれた結婚論をまだ読んだことはない。だが、私たちの友だちは多かれ、少なかれ、この矛盾にくるしんでいるのだ。彼らはときに離婚の自由やその合理性を認めることによって、こうした矛盾を解こうと考えている。けれども離婚の自由や合理性を認めることは決して問題を解決したことにはならぬ。離婚後に行なわれた新しい結婚のなかにも私が書いたどうにもならぬ矛盾は繰り返されるからだ。
もっと深い男女の存在的な結びつきで結婚の問題にも照らしあわされねば、こうした矛盾を克服できないと私は思っている。たとえば、夫婦間の因縁とか、業という問題はすぐ非現代的だといわれるが、私はそこにもっと深い価値をおいていいと考えているのである。