もちろん、女性もまた妻であり、母親だけであることには満足はしないというだろう。だがそのような彼女たちの欲求は男性ほど強くはないし烈しくもない。私はまともな女性がまず念頭にもつものは母親になり妻になることであって、それ以外の欲求は彼女にとって副産物だと考えている。つまり女性はいつもひとつの場所にしっかりと根をおろし、そこを秩序だて、ひとつのシンボルだけを生涯まもって生きていこうとする本能を持っているのだ。だが不幸にして男性にはこのような静止の本能よりも運動の本能——動くこと、たたかうこと、征服すること——のほうがはるかに強いのである。
この男性と女性とのおおきな違いが、結婚生活ではしばしばナマのまま、さらけだされる。妻となり母性となった女はその夫に静止すること、動かないことを要求する。妻のもはや微動だにしない存在が、それを無言のうちに求めている。妻が夫にとってある息ぐるしいものに見えはじめるのは、その時からなのである。