以前、テレビ番組の企画で調べていただいた女王様の「遺伝子診断書」を、このたび、薬学博士の生田哲氏に見ていただいた。生田氏はアメリカで「DNAと蛋白質をターゲットにしたドラッグデザインの研究」をされていた方で、遺伝子や脳内物質に大変詳しい方なのだ。
女王様は、何故、自分の「遺伝子診断書」を専門家に見ていただこうと思ったのか。それは、「韓国では生まれた子どもの遺伝子を調べ、その診断書を元に、我が子の遺伝子に合った教育方針を立てる」という話を聞いて、「んなこと、本当にできるんじゃろうか? つーか、この診断書って、どこまで信用できるの?」という素朴な疑問を覚えたためである。
で、さっそく生田氏に診断書をお見せしたところ、
「まずね、ドーパミンやセロトニンといった脳内物質に関係する遺伝子は、ひとつやふたつじゃないんですよ。実際には、何十個も関係している。だから、ここにあるデータは非常に少ないんです。こんなごく一部の遺伝子を調べたって、その人の性格や傾向が把握できるわけがないんです」
「え、そーなんですか!?」
「そうなんですよ。たとえば、ここに『好奇心(衝動性)遺伝子に変異が見えます』と書いてありますね。これはたぶん、ドーパミンの受容体であるD4レセプターを指してるんだと思いますが、そもそもドーパミンが脳に影響を与える仕組みを考えると、レセプターだけでなく、ドーパミンの量や運搬体の量も調べなきゃいけないわけで、それぞれ別の遺伝子が関わっているんですよ。なのに、この診断書はD4レセプターの遺伝子しか調べてない」
「こんな中途半端な調べ方じゃ何にもわからん、と」
「そう。ただね、D4レセプターに変異のあるのが確かなら、うさぎさんが『センセーション・シーカー』と呼ばれるタイプの人間である可能性は考えられる、と。それくらいのことは推測できるわけ」
「センセ……? 何ですか、それ?」
「ノベルティ・シーキングとも言うんだけど、新規探求性の人ね。ドーパミンの効きが普通の人より弱いから、普通の刺激じゃ満足できない。空から飛び降りたり、崖に登ったり、要するに生きるか死ぬかという行為に快感を覚える人」
「あっ、それです、私!」
「わかる。これはね、ひと言で言うと危ない人です」
「危ない人?」
「極限まで行っちゃうからね。犯罪者に多いんですよ」
がぁ───ん!!!!
民よ、女王様は「犯罪者の卵」であったらしい。生まれて四十六年、万引きすらしたことのない私が、まさかそんな傾向を持っていたとは! とはいえ、福田和子に妙に関心を寄せてしまったり、東電OL(犯罪者じゃないけど)に異様に感情移入したり、私には確かに「逸脱者への共感」とでも呼ぶべき感情がある。それは、自分に「道を踏み外す者」の遺伝子が備わっていたからなのか。彼女たちはやはり、女王様の「鏡像」であったのか。
驚き慄《おのの》く女王様に、生田氏はさらに興味深い遺伝子の話をしてくださったのであった。
「遺伝子は図書館なんです」
「は?」
そのココロは次号に続く。