アロマテラピーって、まだ流行ってるんですかね。輸入雑貨店なんかを覗くと、お香だのアロマキャンドルだのがいまだに並んでるから、まぁ根強い人気を誇ってるんだろう。「心を癒してくれるジャスミンの香り」なんてコピー付きでさ、じつはトイレの芳香剤の香りだったりするんだよな、コレが。
流行りモノに弱い女王様ではあるが、べつにトイレの芳香剤に慰めてもらうほど心が傷ついてるワケじゃないので、アロマテラピーにはほとんど関心を持たずに今日まで生きてきた。
が、先日、妙なモノを見つけてしまったのである。
それは、「Magic Pillow」という名の、約十センチ四方の小さなクッション。中に詰められた九種類のハーブが、深〜い眠りを与えてくれるのだそうだ。要するに、安眠用アロマ・グッズですね。
まぁ、これだけなら全然ヘンじゃないのだが、そのパッケージの写真が独特の怪しさを醸《かも》し出しているのだ。
裸の外国人女が胸もあらわに横たわり、その左上にラマ僧のような(見ようによってはオウム信者風にも見えなくはない)坊主頭の男が屈み込んで、「sleep……sleep……」と囁いている。まるで、女に催眠術をかけて意のままに操ろうとしてる怪僧ラスプーチン、といった様子だ。ラスプーチンにしては、ちょっとラマ僧、精力なさそーな顔つきなのが心配だが。
で、このラマ僧はまた、パッケージのフタの部分にもいて、購入者に向かって厳《おごそ》かに語りかけている。いわく、
「これを寝るとき、そばに置くのじゃ。この中から出てくる不思議な香りが深〜い深〜い眠りを……。ぜったい悪用しちゃいかんぞ」
はぁ? 悪用?
「ぜったい悪用するな」などと、わざわざ断ってるところを見ると、「これは悪用できるんだぞ」と彼は言いたいワケなのだろう。
単なる安眠グッズだと思ってた私は、このセリフを読んで初めて、パッケージの裸の女の意味を理解したのであった。
なーるほど。つまりこれは、女の枕元に忍ばせて、グッスリ眠り込んだところを×××、という趣向のモノであったか。いやぁ、素晴らしい。「ストレスのせいで、最近、不眠なのぉ」とか「疲れてる自分を癒してあげたぁ〜い」とか言ってるアロマテラピー女につけ込んで、いい思いをしようって寸法か。
世の中に蔓延する「ヒーリング」とやらに好感を抱いてない私としては「やっちゃえ、やっちゃえ」という気もしないではないが、「女を眠らせてその隙に……」という発想はまた、志が低すぎる。女の酒に目薬入れる二十年前の大学生じゃあるまいし、あんた、ダサすぎ。
おい、ラマ僧。くだらないコト考えてないで修行しろっ……と、思わずパッケージに向かってツッコんでしまった私である。
しかしまぁ、ここまで言われたら、その効果のほどが気になるではないか。クロロホルムでも嗅がせるんならともかく、たかがハーブで、そんなに熟睡するもんかぁ?
そこで、女王様みずから、人体実験してみるコトにした。ただ問題は、女王様、普段からムチャクチャ寝付きがいいのである。被験体としては理想的じゃないが、周りに不眠症の友人もいないことだし、仕方ない。
で、さっそくベッドに横たわり、魔法の眠り袋を箱から取り出した、その瞬間……!
くっせぇっ!!!!
あまりにも強烈なハーブの香りに、眠気なんかいっぺんに吹っ飛んだよ。芳香なんてぇ言葉を通り越して、もはや異臭に近い。トイレの芳香剤とナフタリンを、一度に鼻の穴に詰め込まれたって感じ。とてもじゃないが、寝てられませんぜ。
もし、私の枕元にこんなモノを忍ばせる男がいたら、私は即座にムクッと起き上がり、有無を言わせず、そいつの顔面を張り飛ばすであろう。寝付きはいいが、寝起きは悪い女王様。しかも、こんな強烈な匂いで目醒めさせられた日にゃ、不機嫌指数は最高値だよ。
こんなのマジに買うヤツがいたら、そいつはバカだ。でも、いるんだろうなぁ、絶対に。脳ミソ海綿体みたいなヤツが。癒されたい女と、ヤリたい男……ま、どっちもどっちですかね。