朝日新聞の記事によると、この不景気の世の中において、ブランド物のブティックだけは右肩上がりに売り上げを伸ばしているそうである。そーか、私のようなバカモノが、まだまだいっぱいいるんだね。うれしいよ。
だが、この不景気知らずのブランド物業界にも、もちろん人気の浮沈はあるワケで、どのブランドも絶好調かといえば、そんなはずはないのである。
雑誌などの特集を見る限り、たぶん現在のトップブランドは「プラダ」「グッチ」「シャネル」「エルメス」「ルイ・ヴィトン」あたり。個人的にはこれに「ディオール」(ガリアーノ以降)「ドルチェ&ガッバーナ」を加えておきたい。宝飾品ブランドは、文句なしに「カルティエ」と「ブルガリ」であろう。
さて、以上のラインナップを見て、「あれ、『ティファニー』は?」と思われたオジサマも、いらっしゃるかもしれない。そう、懐かしきバブル絶頂期の頃、クリスマスにはバカ・カップルの行列までできたという、伝説の「ティファニー」。近頃、とんとお噂を耳にしませんが、いかがお過ごしでしょーか?
てなコトを考えてたら、つい先日、久しぶりに「ティファニー」の名前を聞いたのである。友人が、「日本未入荷の『ティファニー』の超レア・アイテム」を見かけたという。
ほほぉ、超レア・アイテムとは聞き捨てならない。いったい、どんな商品であろうか?「ティファニー」だから、たぶん銀製品には違いないが、はたしてアクセサリーなのか、あるいはテーブルウエアかインテリア小物……と、思ったら!
友人の見たモノは、とてつもなく予想外の品物だったのだ。
「それがさ、ヨーヨーなんだよ」
「ヨーヨー!?」
私は一瞬、耳を疑いましたね。
ヨーヨーって、あのヨーヨーかい? ほら、糸がついててビヨーンと伸びたり縮んだりする、子供のオモチャの? 世界的に有名な高級銀製品の老舗「ティファニー」が、バブル期には行列までできた一流ブランド「ティファニー」が、なぜ、ヨーヨー……?
もちろん私だって、ここ数年の間にヨーヨーが大流行したコトを知らないワケじゃない。だが、それはしょせん、子供の間でのブームである。いくらTVゲームが流行ったからって、シャネルやエルメスがゲームソフトを出しますかっつーの。
ターゲットが違うんだよ。たとえ有名ブランドだって、そこらのガキにゃ何のアピール力もないんだよ。ブランド物ってのは一種の宗教だから、信者以外の人間にとっては、まったく価値がないんだよ。なのに、なぜ、ヨーヨー? いったい、どんなお子様が買うんですかい?
謎が謎を呼び、俄然、興味が湧いてきた私は、さっそくそのヨーヨーを購入したのであった。ちなみに値段は、約二万円。ヨーヨーの値段の相場を知らないので、それが高いのか安いのかも判断できない。
こうして入手したヨーヨーは、さすが「ティファニー」というべきか、燦然《さんぜん》と輝く銀のヨーヨーであった。正確にいえば、銀のカバーで覆った木製のヨーヨーである。もう、眩しいばかりにピッカピカ。でも、ちょっと遊んでみようと手に握った途端に、指紋ベッタベタ。
こりゃ、いかん。畏《おそ》れ多くも「ティファニー」様の銀のヨーヨーを、指紋なんぞで曇らせちゃ罰が当たる。放っとくと酸化して真っ黒になるしな。もったいない、もったいない。
だが、どう考えても、手に握らないことには、ヨーヨー遊びは不可能なんである。となると、ここはやはり一流ブランドの店員を見習って、恭《うやうや》しく白手袋をはめて臨むべきだろうか?
ヒマな方は、ちょっと想像してみて欲しい。白手袋をはめて、厳かに銀のヨーヨーで遊ぶお子様の姿を……なんか、すっごくイヤなガキだよなぁ。貧乏人のヒガミかもしれないが、そんなガキを見かけたら、私なんか、思わず後ろから飛び蹴りくらわしたくなるぜ。
「ティファニー」が何を考えてるのか知らんが、女王様は哀しいぞ。まるで、落ちぶれた芸能人を地方の盛り場で見かけたような気分だよ。ヨーヨーだもんなぁ……そりゃ、ないっしょ。もしかしてヤケになってんのか、「ティファニー」?