リヨンという町にいた時、夜、遅くまで本を読んでいると、下宿の奥さんが部屋に来て、
「夜ふかしは体に毒だよ」
と心配してくれる。それでも読み続けていると、
「寝ないなら、お前の健康のため、あたしが電源を切るよ」
健康を心配するという口実のもとに、パチリ、電気を消してしまうのである。
真暗にされれば寝ないわけにはいかぬ。しかし子供じゃあるまいし、九時や十時に灯を消されては仕方ないから、翌日から、本を持って近所のカフェに行った。
だが婆さんは私がカフェに行くことには文句は言わない。言わないところをみると、彼女は私の健康を心配してくれたのではなく、電気代をケチっていたのである。かねがねフランス人はケチだと聞いていたが、そのケチにぶっつかったのは、これが初めてであった。
だが、そのうち次第に、この婆さんだけではなく、フランス人の中産階級は大体においてケチであることがわかってきた。ケチという言葉に語弊があるならば、ムダ遣いをしないと言ってもよい。とにかく、ムダ遣いをしない。学生を例にとるならば、本さえあまり買わない。では本はどうするかというと、図書館をできるだけ利用するのである。