私はひとり暮らしを始めて十年以上になるが、その間に二年一度の割で引っ越しをしている。とりたてて不満はないのだが、新しい部屋に移って二、三か月たつと、引っ越しをしたくなる。今まで引っ越しに使った費用と労力を考えると、我ながら単なるムダとしか思えないのだが、やっぱり引っ越しはすきなのだ。荷物を梱包していると胸がわくわくする。こういうことにも「すきこそ物の上手なれ」があてはまるのかどうかわからないが、引っ越しを手伝いにきた友人からは、
「梱包も手際の良さも、もう完璧、引っ越しのプロ。物書きで食べえなくなっても引っ越しのアルバイトで食えるぞ」
と賞賛されているのである。
私は掃除は苦手だしズボラなので、ふだんはホコリのなかで生活しているようなものだが、やはり次に入る人のことを考える、引っ越すときには気合を入れて、掃除をする。自分の手に負えなければ友人にたのんででもする。ふだん怠けているので掃除もなかなか大変だが、次の入居者のためにはそうするのが当たり前だと思うからだ。だから部屋を明け渡すときは出て行くのが惜しいほど、どこもかしこもぴかぴかになっている。子供の頃引っ越しが多かったので、いつも親にしつこくいわれていた、「立つ鳥跡を濁さず」が頭の隅にひっかかっているのかもしれない。
ところが新しい部屋で心機一転するつもりで、いざ荷物を置いて冷静に部屋の中を見渡すと、前に住んでいた人の雑の掃除ぶりにびっくりすることが多い。これでは「立つ鳥跡を濁し放題」である。風呂場に髪の毛がへばりついていたり、窓のアルミサッシの桟にマニキュアがべったりくっついていたこともある。このときはそのまっかっかの汚れを落とすために、マニキュアを塗らない私は、わざわざ除光液を買ってきれいにしなければならなかった。何たる事かと嘆きながら、はいつくばって掃除をしていると、つい、
「いまどきの若い人は?????」
という三十女の禁句が口からぼろっとこぼれてしまうのである。