お見合い(42)
二十三歳の誕生日を迎えたばかりの良子は、伯母の紹介で、はじめてのお見合いをすることになった。 相手は二十八歳になるコンピューター技師。書類で見る限り、学歴、家柄等には問題はなかった。写真で見る限り、容貌もまあまあだ。
良子はこの男と伯母の家であった。
写真通りの男だった。
形式的な紹介が済むと、伯母はそれとなく席を立ち、若い男女は二人きりにされた。
暫くありきたりな趣味の話などしていたが、ふと相手の男が良子に尋ねた。
「失礼ですが、お見合いははじめてですか?」
良子は、うつむいて、「ええ」と答えた。少し退屈していた。何の胸のときめきも感じないのだ。相手の男にこれといった不満はないのだが、特に魅力も感じなかった。
この縁談は断わろう、と彼女はひそかに思った。けっして悪くはないが、最初の見合いであわてて決めてしまう程の相手でもない、と彼女は考えたのだ。
「実は、僕の友人で、何度目かの見合いの末にやっと結婚した男がいるのですが??????」
と、男は、まるで良子の心中を見抜くたように、突然、友人の話を持ち出した。
良子はやや上の空で耳を傾ける。
「その男が僕にこんな忠告をしてくれたんです。見合いをしたら、よほどの不満がない限り、最初の相手と話をまとめるのが一番良いよ??????」
「あら、どうしてですの?」
「その男に言わせると、何故か、見合いの回数と、相手への満足度は反比例の関係にあるらしい、とこうなのです?????」
「それ、どういうこのですの?」
「つまり、もっと良い相手がいるだろうとほしを出して見合いを重ねれば重ねる程、ひどいのにぶつかるというんですね????」
「まあ、本当かしら」
良子は半信半疑で呟いた。
「友人はそう断言しているのです。彼は十六回もの見合いの果てに、結局、最初に会った女性が一番良かったことに気づいたのですが、その時はあとの祭り。しかたなく、最初の相手より容姿も知性もはるかに劣る十六回目の相手と結婚したのです。たとえ、十七回めの見合いをしたとて、もっと状況がわるくなると判断したのですね??????」
「まあ??????」
この人、結局、何が言いたいのかしら、と良子は理解に苦しんだ。理解に苦しみながらも、そのうち、ずい分まわりくどい言い方をしているが、ようするに、この縁談を成立させたいと暗にほのめかしているのではないか、と思い到った。
そう考えると、彼女の胸は急にときめき出した。つまり、この男は私が気に入ったのだ。彼女はそう思い、女らしい自尊心をくすぐられる気持ちがした。
それに、もしこの男の友人が言ったことが本当だとすると、彼女がこれから会う相手は全てこの男より劣るということになるではないか????
冗談じやないわ。彼女の思った。これ以上、落ちてたまるもんですか。こうなったら、つまらぬ欲は捨てて、話をまとめた方が利口かもしれない。こちらはともかく、少なくとも相手はその気になっているようだし?????。
彼女は素早くそう計算すると、
「それで、あなたは」
としおらしく畳の上に指でのの字を書きながら、小さな声で尋ねた。
「そのお友だちのご忠告に従うおつもりですの?????」
「ええ、そうすればよかったと思ってるんです」
男はくやしそうに答えた。