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(29)腹の虫

时间: 2013-12-27    进入日语论坛
核心提示:腹の虫(29) 私は知り合いと、昼間、お芝居を見にいったときのことである。最初はおなかはすいていなかったのに、時がたつに
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腹の虫(29)

           私は知り合いと、昼間、お芝居を見にいったときのことである。最初はおなかはすいていなかったのに、時がたつにつれ
て、腹の虫がもぞもぞと動きだしてしまい、体内から「クークー」と小さな音を発し始めたのだ。この音が大きくなっていくの
は時間の問題であった。私は目の前のお芝居の展開よりも、腹の虫のほうが気になり、
   (こんなことになるんだったら、やっぱりお昼はサンドウイッチじゃなくて、カツ丼にしておけばよかった???)
   などとつまらない後悔までしてしまった。
   ほんの小さな音だったのが、だんだん大きな音となって体内に響いてくる。
   (どうしよう、どうしょう)
   周囲に人はまだ私の腹の虫には気がついていないようであった。私はどうしたら音をごまかせるか、そればかりを考えて
いた。必要もないのにディッシュペーパーが入っているビニール袋をくしゃくしゃと音がするように握りしめたり、コホコホと
小さく咳払いをしたりした。腹の中にはいかにも大きな音をたてそうな虫が動く気配があった。
   (ああ、もうだめだ???)
   と思ったとたん、劇場中に、
   「ジャーン」
   と大きな効果音が鳴り響いた。腹の虫が「グー」と大きな音をたてたものの、グッど?タイミングの効果音のおかげで、私
は命拾いしたのだ。
   しかし運がよかったのはそのときだけだった。ますます元気になっていく腹の虫は、よりによって、芝居の山場で、観客
が固唾ののんで舞台を見詰めているそのとき、
   「ぐおおおおお」
   とまるで大地を揺るがすかのような大音響で、吠えてしまったのである。
   前に座っていたおじさんは静かに私のほうを振り返り、音源を確認するとまた前を向いた。私は体中から汗を噴き出しな
がら身を縮めていた。そしてつらいながらも、好きな男性と一緒じゃなくて本当によかったと、安堵のため息をついたのだった。
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