そこにはとてもおくびょうなウサギが住んで、昼寝をしながらこんなことを考えました。
「もしもこの地面がわれたら、いったいぼくはどうなるんだろう?」
するとそのとき、すぐそばの地面で、バシンと、ものすごい音がしました。
「そらきた! 地面がとうとうわれたぞ!」
おくびょうなウサギははね起きて、いちもくさんに逃げ出しました。
「どうしたの? なにかあったの?」
ほかのウサギたちが聞くと、おくびょうなウサギはふり向きもせずに走りながら答えました。 「地面がわれたんだ! 大急ぎで安全な場所へ逃げるんだ!」
「何と、それは大変だ!」
ウサギたちはおくびょうなウサギのあとに続いて、いっせいにかけ出しました。
それを見た、森や野原のけものたちが、
「どうしたんだ? どうしたんだ?」
と、言いながら、ウサギたちのあとに続いてかけ出しました。
ウサギの次にシカ、次にイノシシ、次に大シカ、次に水牛(すいぎゅう)、次に野牛(やぎゅう)、次にサイ、次にトラ、そして最後にゾウです。
おくびょうなウサギを先頭にして、それはもう大変なさわぎです。
森の奥には、一頭の大きなライオンが住んでいました。
ライオンは、逃げていくけものたちを見て、
「止まれ、止まれ、止まれ! いったい何事だ!」
と、ものすごい声で怒鳴りました。
するとみんなはびっくりして、その場に止まりました。
ライオンの質問に、ゾウが答えました。
「はい、地面がわれたのです」
「地面がわれた? お前はそれを見たのか?」
「いいえ。わたしはトラに聞きました」
すると、トラが言いました。
「わたしは、サイに聞きました」
次に、サイが言いました。
「わたしは、野牛に聞きました」
野牛が、言いました。
「わたしは、水牛に聞きました」
水牛が、言いました。
「わたしは、大シカに聞きました」
大シカが、言いました。
「わたしは、イノシシに聞きました」
イノシシが、言いました。
「わたしは、シカに聞きました」
シカが、言いました。
「わたしは、ウサギに聞きました」
ウサギが、言いました。
「わたしたちは、先頭のウサギに聞きました」
ライオンは、先頭のおくびょうなウサギに聞きました。
「お前は、本当に地面がわれるのを見たのか?」
「はい、聞きました。たしかに、バリリリッ! と地面のわれる音がしました」
「見ていないのか? 聞いただけでは、あてにならない。どれ、わしが調べてきてやる。みんなはここで待っていなさい」
大きなライオンはおくびょうなウサギを背中に乗せて風よりも速く走り、ビルバの木がまじって生えたヤシの林に着きました。
「ここです。この木の下で聞いたのです」
「・・・やれやれ。よくごらん。どこの地面が割れているというのだね。お前が聞いた音というのは、これが落ちた音だったのではないのかね?」
ライオンはそばに落ちている、大きなビルバの実をころがしていいました。
「あっ。・・・そうかも、しれません」
おくびょうなウサギは、恥ずかしそうに答えました。
ライオンはおくびょうなウサギを乗せて、大急ぎでけものたちのところへ帰りました。
そして、見てきたことを話しました。
「いいかね。よく確かめもせずに、ほかの者が言った言葉を信じてはいけないよ」
ライオンにしかられて、けものたちはすごすごと自分たちの住み家に帰っていきました。