サルと、山イヌと、カワウソです。
ある日の事、ウサギはふと、明日が精進日(しょうじんび)である事に気がつきました。
精進日というのは仏さまの教えを守って身を清め、困っている人にほどこしをする日の事です。
「明日、困っている人が来たら、せいいっぱい助けてあげよう」
みんなはウサギの意見に賛成して、家に帰りました。
次の日の朝、カワウソは食ベ物を探しに、ガンジス川の岸までおりていきました。
ちょうどその時、一人の漁師が七匹のコイをつかまえて草の中にかくし、もっと下の方へと出かけていったあとでした。
「おや? この魚は、誰の物だい? 持っていくよ」
カワウソは三ベんよんでみましたが、返事がありません。
そこでだまって、もらってくる事にしました。
山イヌも、食ベ物を探しに行きました。
山道を進んでいると、畑の番人の小屋から肉や牛乳のにおいが流れてきます。
「おや? この食ベ物は、誰の物だい? 持っていくよ」
山イヌは三ベんよんでみましたが、誰も現れません。
そこでやっぱり、もらっていく事にしました。
サルも森へ行って、マンゴーの実をたくさん集めてきました。
ところがウサギは、何も見つける事が出来ませんでした。
貧乏なので、家にはゴマも米も、何もありません。
「どうしよう? せっかくの精進日なのに。・・・そうだ、もし誰かが食ベ物をもらいにきたら、わたしはその人に自分の肉をあげよう」
さて、このウサギたちの事を知った天上に住む神さまは、みんなの心をためしてやろうと思いました。
そこで神さまはお坊さんに姿を変えて、まずカワウソの家にやってきました。
するとカワウソは、
「さあ、お坊さま。今日は精進日です。どんどんめしあがってください」
と、コイ料理を進めました。
次に訪ねた山イヌの家では、畑の番人のところからとってきた肉や牛乳を出されました。
そして次に訪ねたサルの家では、マンゴーと冷たい水を出されました。
そして最後にウサギの家に行くと、ウサギはお坊さんに言いました。
「今日は、精進日です。
ほどこしをしたくて、あちこちかけ回ったのですが、ごちそうは手に入りませんでした。
そこで今日は、わたしを召し上がってください。
けれど、お坊さまであるあなたがわたしを殺してしまえば、いましめを破ることになります。
そこですみませんが、火をおこしてください。
そうしたら、わたしは自分で火の中に飛び込みましょう。
焼けた頃に取り出して、召し上がってください」
神さまが火をおこすと、ウサギは火の中へ飛び込みました。
ところが火の中へ身を投げたというのに、ウサギはやけど一つしません。
「あれ? おかしいな」
不思議がるウサギに、神さまが言いました。
「信仰心(しんこうしん)のあつい、かしこいウサギよ。お前の徳(とく→よい行い)が、のちの世の人にかたりつがれるよう、記念をしておこう」
神さまはそう言って大きな山をつぶし、そのしぼった汁で月の表面にウサギをえがきました。
その時から、月にはウサギの姿が浮かぶようになったという事です。