兄のカシムはたいそうお金持ちで、弟のアリババは貧乏(びんぼう)な木こりです。
ある日、アリババがロバを連れて森へ行くと、たくさんの馬の足音が聞こえてきました。
見ると馬に乗った男たちが、近づいてきます。
(おそろしい顔をしている。きっと、悪い奴らにちがいない)
アリババはロバを連れて、あわてて物かげにかくれました。
そっと数えると、男たちは四十人います。
やがて親分(おやぶん)が、岩の前に立って言いました。
「ひらけ、ゴマ!」
すると大きな岩が、スーと開いたのです。
男たちはほら穴の中に入ると、持っていた荷物を置いてまた出てきました。
「とじろ、ゴマ!」
親分がさけぶと、岩はスーと閉じました。
男たちは馬に乗ると、走り去って行きました。
「これはすごい、魔法(まほう)の呪文(じゅもん)で岩が動くんだ」
アリババは、さっそくまねをしてみました。
「ひらけ、ゴマ!」
さっきと同じ様に、岩がスーと開きました。
ほら穴に入ったアリババは、目を見張りました。
「これはすごい! 宝の山だ! そうか、ここは盗賊(とうぞく)たちの宝のかくし場所なんだ」
アリババは金貨(きんか)をロバにつむと、急いで家に帰りました。
その夜、アリババはカシムの家に、マスを借りに行きました。
(貧乏人が、何をはかるのだろう?)
そう思ったカシムは、マスのすみっこに、こっそりとのりをぬっておきました。
そしてアリババから返ってきたマスには、のりにくっついた金貨が一枚はりついていたのです。
カシムは、すぐにアリババの家に行きました。
「おい、この金貨をどこで手に入れたんだ! 言わないと、役人に言いつけるぞ!」
仕方なくアリババは、宝のありかを教えました。
(これは良い事を聞いた。よし、その宝を一人じめにしてやろう)
カシムはロバを引いて岩山へ出かけて行くと、教えられた通りに、
「ひらけ、ゴマ!」
と、言いました。
スーと開いた岩の中に入って行くと、そこには目がくらみそうなほどの宝が山づみにされています。
「そうだ、岩のとびらを閉じてから、ゆっくりと袋につめ込むとしよう」
カシムが岩の前で、
「とじろ、ゴマ!」
と、言うと、岩はスーと閉じました。
「よしよし、思うぞんぶん、宝をつめこむぞ」
カシムは夢中で、宝を袋につめ込みました。
ところが大変な事に、外に出ようと岩の前に立ったのですが、出るためのおまじないを忘れてしまったのです。
「ひらけ、マメ。・・・ひらけ、ムギ。・・・ひらけ、トウモロコシ。・・・ひらけ、カボチャ」
オロオロしているうちに、盗賊たちが戻って来てしまいました。
「こそ泥め、盗賊から泥棒するとは、とんでもないやつだ!」
カシムは怒った盗賊たちに、殺されてしまいました。