でもその日は、何度海へ網を投げて引きあげてみても、ちっともさかなが取れません。
けれど最後にやっと、重いものが網にかかりました。
「よしよし、きっと大きなさかなが入ったのだろう」
おじいさんが大喜びで引きあげてみると、なんとそれは銅のつぼでした。
「やれやれ、ただのつぼか。がっかりだな。・・・でも、中に何が入っているのだろう?」
おじいさんは、つぼのふたを開けてみました。
すると、つぼからモクモクと、たくさんの煙が立ちのぼりました。
煙は空いっぱいに広がって、それから人の形になり、おじいさんのそばに立ちました。
現れたのは、ツボの魔神です。
「ありがとう、おじいさん。わしは千年もの間、このつぼに入っていて、ずいぶんつらい思いをしてきた。いまやっと自由になれて、こんなうれしい事はない。お礼にいい物をあげましょう」
魔神はうれしそうにいって、おじいさんを湖につれて行きました。
その湖に網を投げると、赤、白、青、黄と、四つの色のきれいなさかなが取れました。
「見たこともない、珍しいさかなだ!」
おじいさんが四色のさかなを王さまにさしあげると、王さまはお返しに、たくさんお金をくれました。
ところがこのさかなは、いくら気をつけて焼いても、すぐにまっ黒になってしまって食べられません。
「不思議なさかなだ。わしはきっと、このさかなの秘密をといてやるぞ」
王さまはおじいさんに案内させて、さかなの取れた湖へ行きました。
すると湖の向こうに、まっ黒なあやしいご殿がありました。
王さまがずんずん城へ入って行くと、そこには立派な服を着た若者がベッドに腰かけていました。
「ごめんください。おじゃましてもいいですか?」
王さまが声をかけると、若者はおじぎをしていいました。
「はい。立ってごあいさつしたいのですが、わたしにはできません。そのわけを、ごらんください」
若者が長い服のすそをめくると、なんと若者の腰から下が、石になっているのでした。
「実はわたしは、この国の王でしたが、悪い魔女のために、からだの半分を石にかえられてしまったのです。この国を自分の思うままにするため、魔女は山にも町にも魔法をかけました。町の人たちは四色のさかなにかえられて、湖に住むようになりました。いまも魔女は、この御殿の奥に住んでいて、毎日、わたしをぶちに来て苦しめているのです」
この話を聞いた王さまは、どうしてもこの若者や四色のさかなにされている町の人たちを、助けなければと思いました。
「よろしい。わたしがきっと、その悪い魔女を退治してあげましょう」
王さまは勇ましく、御殿の奥に入って行きました。
そして魔女と戦って、ついに魔女をやっつけたのです。
魔女がいなくなると、若者のからだは元通りになり、湖はにぎやかな町になりました。
赤、白、青、黄のさかなは、人間にもどって動きだしました。
王さまは、助けた若者を自分の王子にしました。
そして、四色のさかなを取ってきたおじいさんに、
「お前のおかげで、大勢の人たちを助けることができた」
と、いって、たくさんのごほうびをやったということです。