王子たちの名前は、『フーセイン』、『アリ』、『アーメッド』です。
また王さまは亡くなった兄の娘の『ヌーロニハル』も可愛がって、一緒にお城に住ませていました。
さてある時、とても困った事がおこりました。
「ヌーロニハルと、結婚したいのです」
と、王子たちが三人とも言い出したのです。
でも、三人と結婚するわけにはいきません。
王さまは、考えた末に言いました。
「では、この世で一番珍しい物を見つけてきた者に、姫との結婚をゆるすとしよう」
そこで王子たちは珍しい物を探すために別々に旅に出て、帰りに宿屋で落ち合いました。
「ほら、ぼくの珍しい物は、これだぞ」
三人は得意になって、手に入れた物を見せ合いました。
フーセインは、自由に空を飛べるじゅうたん。
アリは、どんな遠いところでも見える望遠鏡(ぼうえんきょう)。
アーメッドは、においをかぐと病気が治るリンゴでした。
そして三人で望遠鏡をのぞくと、ヌーロニハルが病気で苦しんでいるのが見えたのです。
「大変だ! すぐに帰らないと」
三人は空飛ぶじゅうたんに飛び乗って、お城ヘかけつけました。
そして魔法のリンゴのおかげで、ヌーロニハルはたちまち元気を取り戻しました。
王さまは大喜びの後、大よわりです。
三人の持ってきた三つの品はどれも珍しい物で、どれもヌーロニハルを助けるのに役だったからです。
考え直した王さまは、言いました。
「矢を一番遠くまで飛ばした者を、姫の婿に決めるとしよう」
そこで王子たちは並んで、矢を放ちました。
アーメッドの矢が一番飛んだのですが、飛び過ぎてどこかへ行って見つからないので、王さまは二番目に遠くまで飛ばしたアリを婿に決めました。
「見つからないからだめだなんて、こんなくやしい事があるもんか!」
アーメッドはがまん出来ずに、矢を探してどんどん歩いていきました。
矢は、山のふもとの岩の上に落ちていました。
「おやっ? 岩にとびらがあるぞ」
アーメッドがとびらを開けると、そこには美しい姫が立っていました。
「ようこそ、アーメッドさま。わたしはぺリパヌー姫と申します」
アーメッドは一目で、ぺリパヌー姫に心をひかれました。
やがて二人は結婚し、幸せな月日が過ぎました。
「一度、父上に会いに行ってこよう」
ひさしぶりにお城へ帰ったアーメッドを見て、王さまはたいそう喜びました。
「元気か?
お前がいなくなったあと、フーセインも空飛ぶじゅうたんで旅に出てしまい、さみしいかぎりだ。
今は、どこで暮らしているのだ?」
「それは言えません。
その代わり、わたしは月に一度、お城へ帰ってまいります」
これを聞きつけて、大臣が言いました。
「王さま、アーメッドさまはヌーロニハル姫と結婚出来なかったのをうらんで、今にせめて来るかもしれません」
「そんな、ばかな」
王さまは、気にもとめませんでした。
でもある日、そっと魔法使いにアーメッドを探させますと、魔法使いが言いました。
「王さま、大変です!
王子さまはわたしよりずっと魔法の力がある姫と結婚して、宝石のかがやくお城に住んでいます」
王さまは、あわてました。
「そんなにすごい魔法を使えるなら、この国を乗っ取る事など簡単であろう。
しかしアーメッドが、そんな事をするはずが・・・」
そこへ、大臣と魔法使いが言いました。
「いいえ、王さま。
アーメッドさまは必ずせめてきます。
かわいそうですが、アーメッドさまに何かを失敗させて、それを理由に処刑(しょけい→死刑)しましょう」
次の月になりアーメッドが来た時、王さまは大臣と魔法使いに教えられた、とんでもない注文を出しました。
「わしの軍隊が全部すっぽり入ってしまい、たためば手の平に乗るような、そんなテントを持って来てくれないか」
アーメッドはおどろいて自分の城ヘ帰り、それをぺリパヌー姫に話しました。
「お気の毒に。
王さまはきっと、誰かにおどかされていらっしゃるのですね。
・・・はい、これがそのテントです」
さすがは、力がある魔法使い。
姫は簡単に、注文のテントをアーメッドに渡したのです。
アーメッドはそれを持って、王さまのところヘ行きました。
本当にテントの中に軍隊が入るのを見て、王さまのおどろいた事といったらありません。
王さまはまた、大臣と魔法使いに教えられた無茶な事を言いました。
「ライオンの泉の水を、くんできておくれ。あれを飲むと、長生き出来るそうだから」
アーメッドは、ため息をつきました。
その泉には恐ろしいライオンがいて、近づく人間を食い殺すのです。
でも話しを聞いたぺリパヌー姫は、アーメッドに言いました。
「大丈夫ですよ、アーメッド。ライオンに、ヒツジの肉を投げれば良いのです」
アーメッドはライオンがヒツジの肉を食ベている間に、水をくむ事が出来ました。
「アーメッドは、全く不思議な力を持っている。・・・だが、まさかこれはだめだろう」
王さまは大臣と魔法使いに教えられた、三回目の注文を出しました。
「身長が一メートル、ひげの長さが十メートルあって、とても力持ちのじいさんを連れて来てくれ」
「今度ばかりは、もうだめだ」
前より深いため息をついたアーメッドに、ぺリパヌー姫は言いました。
「ご心配なく、アーメッド」
そう言ったかと思うと、王さまの望み通りの人が現れました。
驚いた事に、それは姫のお兄さんのシャイパルだったのです。
アーメッド王子とシャイパルは、王さまのところへ急ぎました。
そして、
「大臣に魔法使い! 王さまをそそのかしてアーメッドを殺そうとした罪は、重いぞ!」
シャイパルは鉄の棒をビュンビュンふりまわして、その風で大臣と魔法使いを窓の外に吹き飛ばしました。
王さまは、ハッと顔をあげて言いました。
「悪かった、アーメッド。許しておくれ」
王さまが心からあやまると、アリもヌーロニハル姫もかけ寄って来て、心からアーメッドをむかえました。
「それにしても、フーセインもはやく戻ってくればいいのに。
今ごろ空飛ぶじゅうたんで、どこを飛んでいるんだろう?」
みんなはそう言って、空を見上げました。