動物たちの王さまは、動物の中で一番強いライオンです。
ある日の事、森の動物たちが、王さまのところへやって来て言いました。
「王さま。キツネのやつを、こらしめてください。あいつは、とても悪いやつなんです」
「そうです。わたしはだまされて、落とし穴に落とされました」
「わたしの子どもは、足にけがをさせられました」
「ぼくは、朝ご飯を取られました」
それを聞いた王さまは、とても怒りました。
「うわさには聞いていたが、けしからんキツネだ。よびつけて、こらしめてやろう」
王さまの命令で、クマがキツネをよびに行きました。
「おいキツネ! 王さまのよび出しだぞ。さあ、王さまのところへ行くんだ!」
王さまと聞いてキツネはビックリしましたが、それでも笑い顔で言いました。
「クマくん。お使いをごくろうさん。それではしたくをするあいだ、ハチミツでも食べていてください。ハチミツは、そこの木の穴に入っていますよ」
「ハッ、ハチミツ!」
ハチミツが大好きなクマは、大喜びで木の穴に首をつっこみました。
でもいくら探しても、ハチミツなどありません。
おまけに小さな穴だったので、首がぬけなくなってしまいました。
「うーん! うーん!」
クマは大声でうなりながら、何とか首をぬきました。
でも顔はきずだらけで、頭がフラフラです。
クマはヨタヨタと、一人で王さまのところへ帰りました。
「なに、キツネにだまされたって!」
クマの話を聞いた王さまは、今度はネコを使いに出しました。
ネコがやってくると、キツネが言いました。
「やあ、ネコくん。ごくろうさん。したくをするあいだ、物置きのネズミを取ってくださいよ」
「ネッ、ネズミ!」
ネズミが大好きなネコは大喜びで物置に入りましたが、物置きの入り口にしかけられたネズミ取りに足をはさまれ、おまけに柱にぶつかって顔にも大けがをしました。
泣きながら帰って来たネコを見て、王さまはまた怒りました。
「なんと、お前もやられたのか!」
三度目のお使いは、キツネと仲の良いタヌキです。
すると今度は、キツネもおとなしくついてきました。
キツネがやってくると、王さまは怖い顔で怒鳴りつけました。
「こらっ! お前は、けしからんやつだ。そんなやつは、すぐに死刑だ!」
怒られたキツネは、泣きながら言いました。
「王さま、わたしが悪うございました。
どうか、死刑だけはお許しください。
おわびにわたしが今まで集めた宝物を、みんな王さまに差し上げますから。
その宝物は、家の裏山の中にあります」
「うむ。ではそれが本当か、調べてみよう」
王さまはオオカミに、宝物を探すように言いました。
けれど宝物なんて、どこにもありませんでした。
「お前は、まただましたな!」
王さまがキツネをにらみつけると、キツネはあわてて言いました。
「王さま、ちょっと待ってください。
宝物はきっと、オオカミが横取りしたんですよ。
そうに違いありません!」
「な、何だとっ、このうそつきギツネめ!」
怒ったオオカミは、キバをむいてキツネに飛びかかろうとしました。
すると王さまが、オオカミとキツネに言いました。
「待て、待て。
どちらが正しいかは、勝負で決めろ。
オオカミとキツネが勝負をして、もしキツネが勝ったなら今までの事を許してやろう」
どう考えてもオオカミとキツネでは、キツネに勝ち目はありません。
しかしこうなる事をよそうしていたキツネは、太い尻尾の中にたくさんの砂をかくしていたのです。
さあ、いよいよ勝負です。
「なまいきなキツネめ! ええい!」
「そうかんたんに、負けるものか! やあー!」
飛びかかって来るオオカミの顔に、キツネは砂の入った尻尾をうちつけました。
すると目に砂が入ったオオカミは、その場にうずくまってしまいました。
「あいたたっ! めっ、目が見えない!」
いくらオオカミでも、目が見えなくてはどうしようもありません。
とうとうオオカミは、キツネに負けてしまいました。
オオカミに勝ったキツネは、にっこり笑って王さまに言いました。
「どうです。オオカミに勝ちましたよ」
約束なので、王さまはキツネを許すしかありません。
「むむっ、仕方ない。キツネが今までした事は、全て許してやる」
それを聞いてキツネは、ゆうゆうと自分の家に帰って行きました。