みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
今日の話しは、雪に埋まった町を出た後の話だ。
雪のロシアで馬に乗っての旅はやっかいだったので、わがはいはソリを手に入れると、ウマにソリを引かせて旅を続けた。
すると森の中から、一匹のオオカミが現れたのだ。
オオカミが飛びかかってきたので、わがはいはあわててソリに身をふせたが、オオカミの狙いはわがはいではなく馬の方だった。
オオカミは馬の尻に食らいつくと、みるみるうちに馬を食いはじめ、ぐいぐいと馬の体の中にもぐっていった。
馬はくるったように走り続け、わがはいがムチを打つと馬の中のオオカミもくるったように走り続けた。
そしてオオカミに食い尽くされたウマの皮がスルリと抜け落ちると、何と馬具におさまったオオカミが、馬の代わりに雪をけちらしていたのじゃ。
こうしてオオカミは馬の代わりに走りに走って、わがはいを目的地まで運んでくれた。
その時の町行く人々のおどろいた顔は、まことにけっさくであった。
『馬がオオカミに襲われても、決してあわてるな。
うまくすればオオカミが、その馬の代わりになるであろう』
ちと長いが、これが、今日の教訓だ。
では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。