みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
これは、冬のロシアヘ旅行をした時の話しだ。
「たしかこの辺りに、大きな町があったはずだが?」
馬に乗って町へやって来たつもりが、辺りは一面の銀世界。
日が暮れてきたのに、ここには人家一つなかった。
「仕方がない。今夜はここで野宿だ」
わがはいは雪の上に出ていた杭(くい)に馬をつなぐと、雪をベッドに一夜を明かした。
そして朝になり、起きてみて驚いた。
いつの間にか、わがはいは町の大通りのまん中に寝ていて、雪の上の杭につないだわがはいの馬が、教会の屋根の風見(かざみ→風向きをしる道具)にぶらさがっていたのだ。
「・・・なるほど、そうか」
溶けていく雪を見て、その理由がわかった。
わがはいが杭と思って馬をつないだのは、そもそもあの風見であったのだ。
あまりの寒さに町ごと雪にうまっていたのが、朝になって雪が溶け出したために、わがはいは道にしずみ、馬は屋根にとり残されてしまったのだ。
わがはいは鉄砲を撃ってウマの手綱(たづな)を切り離すと、何とか愛馬を取り戻した。
雪の上で野宿をするときは、雪の下に町が埋まっていないか確かめよう。
これが、今日の教訓だ。
では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。