このお金持ちはお屋敷の倉にたくさんの宝石を持ち、色々なところに別荘も持っています。
でも青いひげがモジャモジャと生えた、とても怖い顔をしているので、人々からは『青ひげ』と呼ばれて嫌われていました。
そして青ひげには、きみょうなうわさがありました。
それは今までに六人も奥さんをもらったのに、みんなどこかへいなくなってしまうというのです。
ある日の事、青ひげは近くに住む美しい娘を、7人目のお嫁さんにしたいと思いました。
そこで娘とそのお母さんや兄弟たち、それに友だちもよんで、おいしいごちそうをしてもてなしました。
みんなは青ひげの別荘に泊まり、何日も何日も楽しく過ごしました。
その間、青ひげは一生懸命にニコニコと、やさしい顔をしていました。
しばらくすると娘は、青ひげのお嫁さんになってもいいと言いました。
青ひげは大喜びで、すぐに結婚式(けっこんしき)をあげたのです。
結婚式から数日後、青ひげは奥さんに言いました。
「明日から大切な用があって、わたしは旅に出かけることになった。だから、あなたに屋敷のカギをあずけていこう」
そう言って、カギのたくさんついているたばを取り出しました。
「これは、家具の入っている倉のカギ。
これは、金や銀の食器の棚のカギ。
これは、宝石箱のカギ。
これは、有名な画家の絵が入っているカギ。
わたしの留守の間、たいくつだったら屋敷にいくら友だちをよんでもかまわないし、どの部屋に入ってもかまわないよ。
ただし・・・」
青ひげは急に怖い目をして、奥さんをジロリと見ました。
「この小さなカギだけは、使わないように」
「はい。でもこれは、いったいどこのカギなのですか?」
「これは、廊下の突き当たりの小さな部屋のカギだ。いいな、。その部屋には絶対に入ってはいけないよ」
「わかりました」
こうして青ひげは、次の朝に出かけていきました。
はじめのうちは、奥さんは友だちをよんで楽しく過ごしていましたが、そのうちにたいくつになってきました。
するとあのいけないと言われた部屋に入りたくて、たまらなくなりました。
「だめ、約束だから、いけないわ。
・・・いけないかしら。
・・・少しだけなら、大丈夫かも。
・・・大丈夫よね。
・・・大丈夫よ」
奥さんは小さなカギで、小さな部屋のドアを開けてしまいました。
「あっ!」
中を見た奥さんは、ドアのところに立ったままガタガタとふるえだしました。
部屋のかべにはたくさんの女の人の死体がぶらさがり、床には血がベッタリとこびりついていたのです。
それはみんな、青ひげの前の奥さんたちでした。
「ただいま」
そこへ、青ひげが帰ってきたのです。
おくさんはビックリして、カギを床に落としてしまいました。
おくさんはあわててカギをひろうと、ドアにカギをかけて青ひげのいる玄関に行きました。
「お、お、お帰りなさい」
奥さんを見た青ひげは、ニッコリ笑いました。
「やあ、すっかり、遅くなってしまったね。ごめんよ。・・・おや、どうしたんだい? そんなにふるえて」
「い、いえ、べ、べつに」
ガタガタとふるえる奥さんを見た青ひげは、急に怖い顔になって言いました。
「渡していたカギを、出してもらおう」
「はっ、はい」
奥さんがふるえる手で差し出したカギを見た青ひげは、キッ! と、奥さんをにらみつけました。
カギには、あの部屋で落とした時についた血がついていたのです。
「・・・いけないといったのに、やっぱり見たんだな」
「お許しください、お許しください」
奥さんは青ひげの前にひざまずいて、泣いてあやまりました。
でも青ひげは、許してくれません。
「お前こそはと、信じていたのに。・・・お前も、悪い女だ。・・・殺してやる!」
「お許しください、お許しください」
「・・・では、お祈りの時間だけ待ってやろう」
「ああ、神さま・・・」
奥さんは必死で、神さまにお祈りします。
青ひげは刀を抜くと、お祈りをしている奥さんの首を切ろうとしました。
ちょうどその時、玄関のドアが開いて二人の男の人が入ってきました。
運がよいことに、奥さんの二人のお兄さんたちが妹をたずねてきたのです。
二人は妹が首を切られそうなのを知って、すぐに青ひげに飛びかかりました。
そして何とか、青ひげをやっつけました。
その後、死んだ青ひげにはしんせきがいなかったので、お屋敷や別荘、お金や宝石は全部奥さんの物となりました。
奥さんはそれから、幸せに暮らしたということです。