グリーシは、いつもどこか遠くへ旅がしたいと思っていました。
今日もグリーシは、村はずれの古いとりでの上で、ぼんやり海の向こうをながめていました。
グリーシが帰ろうと腰を上げた時、とりでの中から、笑い声が聞こえてきました。
のぞいて見ると、小人たちです。
親分らしい小人が、声をはりあげました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
すると、小人の前に馬が現れたのです。
グリーシも、さっそくまねてみました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
やっぱり、馬が現れました。
「こいつは、おもしろい」
グリーシは小人たちにならって、馬にのりました。
馬は、ぐんぐん走り出しました。
海辺につくと、小人たちがさけびました。
「とべ!」
グリーシも、まねてさけびました。
「とべ!」
まるで羽が生えたように、馬は空をとびました。
海も、山も、ひとっとびです。
グリーシは、下に見えるお城がフランスの王さまのお屋敷と聞いて、びっくりしました。
「もう、こんなに遠くまで、来てしまったのか!」
「いいか、グリーシ。おれたちについて来たからには、きもっ玉をすえて、よく聞け。あそこから、お姫さまをさらうのさ!」
「ええっ!」
「今日は、結婚式だ。お姫さまは、きらいな男と結婚させられるから悲しんでいる。だから助けてやるんだ」
小人も、馬も、人間の目には見えないらしく、無事にお城へのりこむことができました。
中ではちょうど、結婚式の最中でした。
グリーシはお姫さまをひと目見て、すっかり好きになってしまいました。
それで、
「さらえ!」
と、いう声を聞くと、一番先にお姫さまをさらいました。
おどろきあわてる王さまたちをあとに、馬はアイルランドへもどって行きました。
親分が、にやりとわらって言いました。
「グリーシ、ご苦労」
とりでについて、グリーシはたずねました。
「これから、お姫さまをどうするんだい?」
「決まっている。おれのお嫁さんにするのだ」
「なんだって!」
ようやくグリーシにも、小人のたくらみがわかりました。
うつくしいお姫さまを、よこどりしようというのです。
「そんなことをさせるものか!」
グリーシは、とっさに胸の十字架をつき出しました。
これには、小人たちもかないません。
「うー、苦しい。そいつをどけろ!」
小人の親分が逃げる時、お姫さまの頭をたたいて言いました。
「お返しに、口がきけなくしてやったぞ!」
小人が言った通り、お姫さまは口がきけなくなりました。
「大変なことになってしまった。いったいどうしたらいいのだろう」
こまったグリーシは、牧師さんに相談しました。
わけを聞いた牧師さんは、お姫さまの世話を、こころよく引きうけてくれました。
「なんとかして、元通り、しゃべれるようにならないものだろうか」
グリーシは一生懸命働いて、お金をためて、国中の医者にお姫さまをみてもらいました。
でも、みんな首をよこにふるばかりです。
ある日、グリーシがとほうにくれて、とりでの上で考えていると、またあの声が聞こえてきました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
グリーシも、まねてみました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
それを知った小人たちは、グリーシに言いました。
「そうそう、きさまに、まねをされてたまるか!」
小人たちの馬は現れても、グリーシの馬は現れません。
「おれたちは、お前みたいなまぬけじゃないんだ」
「そうとも!」
小人たちは、口ぐちにからかいました。
「お姫さまは、しゃべれるようになったかい?」
「あははは。なるもんか。方法は、たった一つしかないんだからな」
「そう、そう。こいつの家の入り口に生えている草を飲めば、なおるのに」
「そんなことさえわからずに、まごまごしてる」
「まったく、人間なんてあほうぞろいだ」
「あっはっはっは」
そう言うと、小人たちは笑いながら、とびさっていきました。
「そうか! 家の前の草を、飲ませればいいのか」
グリーシは、さっそく草をせんじて、お姫さまに飲ませました。
すると、お姫さまはふかいねむりにおちていきました。
「本当に、声が出るようになるだろうか」
グリーシは、心配でたまりません。
長い時間がすぎて、朝の光がお姫さまの顔にふりそそいだ時。
お姫さまの目がパッとあいて、口がかすかにうごきました。
「グ、リ、イ、シ・・・」
グリーシは、お姫さまをだきしめました。
「声が出た! お姫さまの声が出た!」
喜ぶグリーシに、お姫さまはもう一度口を開きました。
「グリーシ。わたしは、あなたが大好きよ」
「お姫さま! よかった、本当によかった!」
そして二人は、しあわせな結婚をしました。