ジーニは遠くの村から、お嫁さんをもらいました。
ある晩、ジーニがこわい夢を見て目をさますと、お嫁さんの姿が見えません。
でも朝になると、いつのまにか、お嫁さんはかえってきていました。
つぎの晩、ジーニは目をつぶって、ねたふりをしていました。
すると、どこからか大きい黒ネコがあらわれて、
「おい、早くこい。みんな、あつまっているぞ」
と、お嫁さんに小声でいいました。
お嫁さんは、ジーニがよくねむっているのをたしかめると、家をそっとぬけだしました。
ジーニも、いそいであとをつけていきます。
お嫁さんと黒ネコは、ある大きな山のほら穴につきました。
そこでお嫁さんは、パッと、モモ色のネコにばけると、そのほら穴の中へとびこみました。
なんとお嫁さんは、おそろしい魔法使いの仲間だったのです。
中では、まっ赤な火がもえており、その上に大ナベがかかっています。
まん中にすわっているのが、魔法使いの親分でした。
子分たちは、ネコやオオカミやフクロウやハゲタカなどの姿にかわって、火のまわりをかこんでいました。
ジーニは、ほら穴をのぞきこんでいるところを、フクロウにみつかってしまいました。
そして魔法使いの親分のまえに、ひきずりだされました。
「ここへきたものは、生きてかえすわけにはいかないぞ! だが、もしもおまえの母親と妹の心臓をもってきたら、命をたすけて仲間にしてやろう」
魔法使いの親分は、おそろしい声でいいました。
村にもどったジーニは、村で一番物知りのおじいさんにそうだんしました。
「魔法使いには、ヤギの心臓をもっていってごらん」
こういうと、小さいおまもりの貝がらをジーニにわたしました。
「この貝は、おまえの命をまもってくれるだろう。大切にもっていなさい」
さて、夜になると、ジーニはヤギの心臓をもってほら穴へでかけていきました。
魔法使いの親分は、その心臓を大ナベに入れて煮(に)ました。
すると、ナベの中で、
「メー、メー、メー」
と、ヤギのなき声がしました。
「ほほう。おまえの先祖はヤギだというのか。よし、家へかえってねてしまえ」
親分が、どなりました。
ジーニはホッとして家へかえると、グッスリとねました。
ところがジーニは、すでに魔法をかけられていたのです。
よく朝、ジーニが目をさますと、高い高いがけの、せまい岩だなの上にねていました。
岩だなの上も下も、何百メートルもある岩のかべでした。
のぼることもおりることも、からだを動かすことさえできません。
ジーニは、ジッと岩だなにねていました。
ひるまは、やけるように暑いお日さまがてりつけます。
夜は寒くて、こおってしまいそうです。
おなかはすくし、のどがかわいて、からだがドンドンとよわっていきました。
おじいさんにもらったおまもりの貝がらがなかったら、ジーニは、とっくに死んでしまったことでしょう。
貝がらが、命だけはまもってくれたのです。
ある日、ジーニの足の上に、なにかがとびのりました。
それは、一匹の子リスでした。
「お母さん、人が死んでるよ」
子リスがよぶと、お母さんリスも出てきました。
ジーニは、目をあけました。
「おや、まだ生きているようね」
そういうと、お母さんリスは、トウモロコシの粉を水でといておかゆをつくり、しいの実のからに入れてはこんできました。
「さあ、たべて、元気をだしなさい」
お母さんリスは、やさしくいいました。
リスの親子は、何回も何回も、おかゆをはこびます。
やがてジーニは、おなかがいっぱいになりました。
それから、杉の枝をジーニの頭にのせて日よけをこしらえたり、木の皮でふとんまでつくってくれました。
毎日、子リスはジーニのおなかの上で、おしゃべりしたり、おもしろいインデアンおどりをおどりました。
やがてジーニは、子リスがおどると、
「ヤ、ホー。ヤ、ホー」
と、かけ声をかけたり、手をたたけるくらい、元気になったのです。
ある日、お母さんリスが、マツかさを一つかかえてかえってきました。
それをジーニの足もとから、がけ下へおとすと、
♪マツの木、マツの木、大きくなーれ。
♪マツの木、マツの木、大きくなーれ。
と、大声で、うたいました。
つぎの日の朝、ジーニはがけの下を見おろしました。
すると、はるか下に、草原と小川が見えました。
そして草原に、一本の小さいマツの木がはえていました。
そのマツの木は、グングンと大きくなりました。
何日かたつと、とうとう、マツの木の先は岩だなのところまでのびてきました。
つぎの日には、岩だなをこして、見あげるばかりの大木になったのです。
「ジーニ。この木をつたって、下へおりるんですよ」
お母さんリスが、いいました。
ジーニはよろこんで、ふとい枝をつかむと、マツの木にとびうつりました。
リスの親子も、下までいっしょにおくってくれます。
「リスよ、ありがとう。親切はけっしてわすれはしない」
と、ジーニはお礼をいいました。
「うちへかえったら、これをお嫁さんにたべさせなさい」
こういって、お母さんリスがマツのタネをジーニにくれました。
ジーニがぶじにかえったので、お嫁さんはたいそうビックリしました。
「これは、おみやげだ」
と、いって、ジーニがマツのタネをわたすと、お嫁さんは、よろこんでたべてしまいました。
その日の夕方、ジーニが狩りからかえってくると、どうでしょう。
ジーニの家の屋根をつきぬけて、二本のマツの木が空にそびえているではありませんか。
家のかべをつきやぶり、ふとい枝も四方へのびています。
と、パーン、と音がして、目のまえで家がはれつしてしまいました。
そのマツの木は、ドド、ドド、と、なき声をたてていました。
マツのタネをたべたわるいお嫁さんは、マツの木になってしまったのです。
ジーニはあたらしいお嫁さんをもらって、しあわせにくらしました。