おばあさんは一人ぼっちだったので、ある日、小麦粉をこねながら一人ごとをいいました。
「そうだわ、ショウガパンのぼうやをつくりましょう。人間の子どもとそっくりな、かわいいぼうやをつくりましょう」
おばあさんは一生けんめい小麦粉をこねて、ショウガパンのぼうやをこしらえると、焼きガマに入れました。
「さあ、もう焼けたころね」
三時間たって、おばあさんが焼きガマをあけると、こんがり焼けたショウガパンのぼうやが飛び出してきました。
「まあまあ、なんておいしそうなぼうやでしょ」
おばあさんが、ショウガパンのぼうやをテーブルにのせたとたん、ぼうやはピョコンと飛びあがると、
「ぼくはショウガパンでできてるけど、食べられるのなんかいやだよ!」
と、いって、どんどん走り出してしまったのです。
「待ってよ、待ってよ。あたしのぼうや」
おばあさんが、あわててぼうやをおいかけましたが、
「つかまるもんか」
ショウガパンのぼうやはドンドン走っていって、小さなほらあなをみつけると、ピョンと飛び込みました。
でも、ぼうやが飛びこんだのは、ドブネズミの住んでいる、ほら穴だったのです。
「おや。なんておいしそうなぼうやだろう。お昼ごはんに、ちょうどいいぞ」
ドブネズミは、ぼうやを見つけて大喜びです。
「ドブネズミになんか、つかまるもんか」
ショウガパンのぼうやは、また逃げ出しました。
さて、そのショウガパンのぼうやとドブネズミを見つけたものがありました。
それはネコです。
「おや、ごちそうが走っていくぞ。ニャアー」
ネコはニャアニャア鳴きながら、ショウガパンのぼうやとドブネズミを追いかけてきました。
さて、ショウガパンのぼうやと、ドブネズミと、ネコを見つけたものがありました。
それは、大きなイヌです。
「なんて、おいしそうなぼうやだろう。ワン」
イヌは、ワンワンほえながら追いかけてきました。
「待ってよ、待ってよ。あたしのぼうや」
ショウガパンのぼうやと、ドブネズミと、ネコと、イヌのあとから、おばあさんが追いかけます。
「なんだ、なんだ」
「わあ、おいしそうなショウガパンのぼうやが走っていくぞ。つかまえて食ベてやろう」
走っていくぼうやを見つけて、町の人がさけびました。
さあ、大変です。
ショウガパンのぼうやの後ろから、町じゅうの人が追いかけてきます。
「どうしよう。だれか助けて!」
ショウガパンのぼうやは、走って走って足が取れてしまいそうです。
そのとき、ショウガパンのぼうやは、子どもが忘れていったおもちゃの飛行機を見つけました。
「いいものがあったぞ。あの飛行機に乗って空の向こうへ逃げていこう。そうすれば、だれも追いつけやしないぞ」
ショウガパンのぼうやは、おもちゃの飛行機に飛び乗ると、青い空のかなたへいってしまいました。
今ごろは、おかしの国についていることでしょう。