若者は三年もの間、朝から晩まで働き続けましたが、お百姓さんはお給料をくれません。
そこで若者が文句を言うと、
「ふん、なまいき言いやがって。なら一年で銅貨一枚、三年で三枚だ」
と、銅貨を三枚だけくれました。
とても少ないお給料ですが、若者はそれでがまんをすると旅へ出ました。
森を進むと、途中で小人が現れました。
小人は若者に頭を下げると、若者に言いました。
「どうか、お金をめぐんでくだされ」
「うん? この銅貨かい? いいよ」
人の良い若者は、三枚の銅貨を気前良くあげました。
すると小人は、とても喜んで言いました。
「お礼に、何かを差し上げますよ。何でも欲しい物をおっしゃってください」
「じゃ、ヴァイオリンをくれよ」
「ヴァイオリンですか。それなら、良いのがありますよ。 それをひくと、みんながおどり出すやつが」
小人は背中に背負った袋からヴァイオリンを取り出すと、それを若者に渡しました。
「わあ、すてきなヴァイオリンだ。ありがとう」
若者はうれしくなって、ヴァイオリンをかなでながら旅を続けました。
しばらくすると年寄りの木こりが、若者を呼び止めました。
「お前さん、銀貨一枚やるから、ここの木を切っとくれよ」
「いいよ」
若者は引き受けると、おじいさんのオノで大木を切り倒してあげました。
すると年寄りの木こりは、
「なんだ。こんなにかんたんに切り倒せたのか。これなら、銅貨一枚でよかろう」
と、銀貨をくれる約束なのに、銅貨しかくれなかったのです。
「さあ、金を受け取ったら、はやく行け」
木こりが若者を追い払おうとするので、若者は手にしたヴァイオリンをひきはじめました。
すると木こりが、おどりを始めたのです。
「ど、どうしたんじゃ? わしは、おどりたくなんかないぞ!」
木こりはわめきましたが、体が勝手におどり続けます。
そのうちに息が苦しくなって、若者に言いました。
「助けてくれ! ヴァイオリンをやめてくれ! 約束通り、銀貨をやるから!」
若者がヴァイオリンをやめると、木こりのおどりがやっと止まりました。
そして木こりは約束の銀貨を払うと、若者をうらんで役人にうったえました。
「旅の若者が、この年寄りから銀貨をだまし取りました。どうか、つかまえてください!」
それを聞いた役人たちは若者を追いかけると、すぐにつかまえて言いました。
「年寄りをだまして銀貨を取り上げるやつは、死刑だ!」
すると若者が、役人たちに頼みました。
「では死ぬ前に、一度だけヴァイオリンをひかせてください」
「いいだろう」
木こりが止めるのも聞かずに、役人は若者にヴァイオリンを渡しました。
若者はそれを受け取ると、ヴァイオリンをひきました。
そのとたん、役人たちばかりか町中の人々がおどりはじめ、やがてイヌやネコまでもがおどり出したのです。
「た、たのむ。ヴァイオリンをやめてくれ!」
役人たちは、若者に頼みました。
「いいですよ。ぼくがお金をぬすんだんじゃないと、信じてくれるのなら」
「わかった。あんたは悪くない」
役人たちが答えたので、若者はヴァイオリンをやめるとまた旅を続けました。