ギアッコはひとにぎりのマメを持っていて、毎日一粒づつ食べました。
でもとうとう、あと一つでみんななくなってしまう時がやってきたのです。
ギアッコは、たった一つ残ったマメをポケットにしまって、テクテクと歩いて行きました。
日がくれる頃、ギアッコはクワの木の下にある小さな家にたどり着きました。
トン、トン、トン。
ギアッコが戸を叩くと、腰のまがったおじいさんが出てきました。
「何の用だね?」
「あの、ぼく、お父さんもお母さんもいないんです。このマメが、一つしかないんです」
と、ギアッコは言いました。
「おお、それはかわいそうに。では、これをお食べ」
腰のまがったおじいさんはクワの実を四つくれて、ギアッコをだんろのそばに寝かせました。
夜中になりました。
コロコロコロ。
ギアッコのポケットから、マメが転がり落ちました。
パクリ。
ネコが、そのマメを食べました。
ギアッコは目を覚まして、
「ねえねえ、おじいさん。おじいさんのネコが、ぼくのマメを食べちゃったよ」
と、泣き出しました。
「おや、それは悪かった。では、そのネコを持っていっておくれ。わしは、ドロボウネコはきらいだからね」
ギアッコはネコをかかえて、スタスタと歩いていきました。
日がくれる頃、ギアッコはクルミの木の下にある小さな家に着きました。
トン、トン、トン。
ギアッコが戸を叩くと、しらがのおじいさんが出てきました。
「何の用だね?」
「あの、ぼく、お父さんもお母さんもいないんです。マメを食べたネコしか持っていないんです」
と、ギアッコが言いました。
「おお、かわいそうに。では、これをお食べ」
しらがのおじいさんはクルミの実を三つくれて、ギアッコとネコをイヌ小屋に寝かせました。
夜中になりました。
ムシャ、ムシャ、ムシャ。
イヌがネコを、食べてしまいました。
ギアッコは目を覚まして、
「ねえねえ、おじいさん。おじいさんのイヌが、ぼくのネコを食べちゃったよ」
と、泣き出しました。
「おや、それは悪かった。では、そのイヌを持っていっておくれ。わしは、よくばりイヌはきらいだからな」
ギアッコはイヌをつれて、ズンズンと歩いていきました。
日がくれる頃、ギアッコはイチジクの木の下にある小さな家に着きました。
トン、トン、トン。
ギアッコが戸を叩くと、しわだらけのおじいさんが出てきました。
「何の用だね?」
「あの、ぼく、お父さんもお母さんもいないんです。マメを食べたネコを食べたイヌしか持っていないんです」
と、ギアッコが言いました。
「おお、かわいそうに。では、これをお食べ」
しわだらけのおじいさんはイチジクを二つくれて、ギアッコとイヌをブタ小屋に寝かせました。
夜中になりました。
ゴクリッ。
ブタが、イヌを飲み込みました。
ギアッコは目を覚まして、
「ねえねえ、おじいさん。おじいさんのブタが、ぼくのイヌを食べちゃったよ」
と、泣き出しました。
「おや、それは悪かった。では、そのブタを持っていっておくれ。わしは、そんな食いしん坊のブタは大きらいだ」
ギアッコはブタをつれて、ドンドンと歩いていきました。
そして日がくれる頃、ギアッコはクリの木の下にある小さな家に着きました。
トン、トン、トン。
ギアッコが戸を叩くと、ヨボヨボのおじいさんが出てきました。
「何の用だね?」
「あの、ぼく、お父さんもお母さんもいないんです。マメを食べたネコを食べたイヌを食べたブタしか持っていないんです」
「おお、かわいそうに。では、これをお食べ」
ヨボヨボのおじいさんはクリを一つくれて、ギアッコとブタをウマ小屋に寝かせました。
夜中になりました。
ガッ、ガッ、ガッ。
ウマが、ブタを食べました。
ギアッコは目を覚まして、
「ねえねえ、おじいさん。おじいさんのウマが、ぼくのブタを食べちゃったよ」
と、泣き出しました。
「おや、それは悪かった。では、そのウマをつれていっておくれ。わしは、ろくでなしのウマなんか大きらいだ」
ギアッコはウマにまたがって、パカパカすすみました。
日がくれる頃、ギアッコはお城に着きました。
ドン、ドン、ドン。
ギアッコが門を叩くと、お城の中から、
「だれだっ!」
と、声がしました。
「あの、ギアッコです。ぼく、お父さんもお母さんもいないんです。マメを食べたネコを食べたイヌを食べたブタを食べたウマしか持っていないんです」
「ワッハッハッハ」
門番が、吹き出しました。
「王さまに、お伝えしよう」
「ワッハッハッハ」
王さまも聞いて、大きな口を開けて笑いました。
「何だと? ウマを食べたブタを食べたイヌを食べたネコを食べたマメだと。こりゃ、おもしろい」
「あのう、王さま」
と、ギアッコが言いました。
「その反対です。マメを食べたネコを食べたイヌを食べたブタを食べたウマですよ」
「ワッハッハッハ」
王さまは、お腹をかかえて笑いました。
「おっと、間違えたか。ウマを食べたマメだったな。いいや、マメを食べたウマだ。おや、また違ったわい。ワッハッハッハ」
王さまが笑うと、大臣も、おきさきも、お姫さまも、召使いも、料理番も、だれもかれも笑いました。
オホホホ・・・、ウフフフ・・・、エヘヘヘ・・・、アハハハ・・・。
するとお城のてっぺんにある鐘(かね)が、体をゆすってカランカランとなりました。
そして、国中の人が笑い出しました。
「ギアッコよ。
毎日、わしに話して聞かせてくれないか。
ウマを食べたマメの話。
・・・いや、そのマメを食べたウマだ。
・・・おっと、違った。
マメを食べたネコを食べたイヌを食べたブタ食べたウマの話だ。
ハッハッハッハ。
何度聞いても、おもしろい。
ギアッコよ、わしのとなりに座っておくれ」
ギアッコは金のかんむりを頭に乗せて、王さまのとなりのいすに座りました。
そして毎日毎日、マメを食べたネコを食べたイヌを食べたブタを食べたウマの話をして、国中の人が楽しく暮らしました。