「ギルガメシュ王は、自分勝手なことばかりする」
「あれじゃ、みんな困るよ」
それを聞いた天の神は、女神をよびました。
「ギルガメシュ王とたたかえる人間を、一人つくりなさい。きっと町の人を、すくってくれるだろう」
女神は、すぐ土をこねてつくりました。
体中に毛が生えていて、髪は長く、けものの皮を着ています。
名前を、エンキドウとつけました。
「エンキドウ、さあ行け」
エンキドウは森へ来ると、けものたちと暮らしました。
一緒に草を食べたり、小川に口を突っ込んで水を飲みました。
ある日、森のけものが猟師(りょうし)のアミにかかりました。
「なんだ。誰も助けられないのか」
エンキドウは、アミを切って逃がしてやりました。
この様子を、猟師が木のかげで見ていました。
「おそろしいけものが、現れたぞ」
猟師は青くなって飛んで帰ると、お父さんに話しました。
「それは大変だ。すぐエレクの町へ行って、王さまに知らせるんだ」
知らせを聞いたギルガメシュ王は、猟師に言いました。
「森へ娘を連れて行ってくれ。そうすれば、人間の国へ来るだろう」
猟師は言われた通りに、娘を連れて森につきました。
「お前は、この小川のそばにいるのだよ。どこへも行ってはならないよ」
そう言いつけて、猟師は家に帰りました。
水を飲みに来たエンキドウは、きれいな娘を見てすぐに好きになりました。
「ぼくと結婚してください。きっと大事にします」
それからエンキドウは、娘と一緒に暮らすようになりました。
すると不思議な事に、体に生えていた長い毛がなくなりました。
娘が、エンキドウに言いました。
「あなたはもう、立派な人間になったのですよ。町へ行きましょう」
「町へ行って、どうするんだね」
「町には、神さまと人間の間に生まれたギルガメシュという王さまがいます。とてもいばって、町の人たちを苦しめているんです」
「よし。行って、その王をこらしめてやろう」
二人は、町ヘつきました。
するとふえやたいこの音がして、にぎやかな行列が近づいてきました。
「あれは、なんだ?」
エンキドウが尋ねると、娘が答えました。
「王さまの結婚式です」
「そうか、あれが王さまだな」
言うがはやいか、エンキドウは飛び出して行って王に組み付きました。
「ややっ! 強そうな男だ」
「王も、かなわないぞ」
まわりのみんなが騒ぎ出す中、エンキドウと王は激しくたたかいました。
「王さま、あなたは町の人たちを苦しめていると聞く。ぼくが勝ったら、町の人を苦しめるのをやめるんだ!」
「よかろう」
王も強かったのですが、エンキドウにはかないません。
王はとうとう、組みふせられてしまいました。
「エンキドウよ、お前の勝ちだ。約束は、守ろう。そしてこれからは、友だちになろう」
エンキドウに負けてから、ギルガメシュはやさしい王になりました。
そして二人は、親友になったのです。
「エンキドウ、神の森にあるモミの木を切り倒して、みんなをおどろかそう」
冒険の好きな王が、言い出しました。
「でもあの森には、恐ろしい一つ目で火を吹くフンババがいるんだ。けものたちと暮らしていたとき見たんだ」
「では、神さまに助けてもらおう。そうすればやれる」
神たちは、反対しました。
でもギルガメシュのお母さんの天の女神が、太陽の神に頼んでくれました。
「さあ、いよいよ出発だ」
ギルガメシュとエンキドウは、剣やオノを持って出かけました。
普通の人ならひと月はかかる道のりですが、いさましい二人はたった三日で森の入り口につきました。
「大きなとびらが閉まっているぞ、エンキドウ」
エンキドウはとびらを押して、すき間からのぞいてみました。
「中に、フンババがいる。出てこないうちに、入ってつかまえよう」
入ったとたん、とびらがはね返ってエンキドウの手をはさみました。
「いたたっ!」
はさんだ手が痛くて、エンキドウは転がりました。
「帰ろう。とてもフンババは、やっつけられない」
「なんだ。それくらいの事でまいってどうするんだ。あそこがだめなら、森の奥で待ちぶせよう」
ギルガメシュは、先に立ってズンズン進みます。
エンキドウも、仕方なくついていきました。
やがて森の奥の、モミの木の山につきました。
「この高い山のてっぺんだな、神さまが集まって相談するところは」
「それにしても、疲れた。ちょっと休もう」
木のかげに入ると、二人はそろって眠りだしました。
朝になり目を覚ますと、二人は森の奥へ入りました。
「さあ、この大きなモミの木を切ろう」
ギルガメシュがオノをふるうと、モミの木はすごい音をたてて倒れました。
その音を聞きつけて、ひとつ目のフンババが飛び出してきたのです。
フンババはキバをむき出して、火を吹きながら近づいてきます。
「ウヒャァ!」
ギルガメシュは、怖くなって動けません。
その時、太陽の神の声が聞こえました。
「ギルガメシュよ。恐れずにフンババの目に、風を吹き付けるのだ」
ギルガメシュは、天に向かって頼みました。
「風の神さま、どうか風を送ってください」
するとみるみる強い風がおこって、フンババがヨロヨロしてきました。
目が、フンババの弱点だったのです。
「さあ、かくごしろ」
ギルガメシュとエンキドウは、フンババの首をバッサリと切り落としました。
「やった。うまくいったな」
ギルガメシュとエンキドウは、血のついた手や顔を川で洗いました。
「王さま、どうぞわたしの家へおいでください」
声がしたので振り向くと、美しい女の人が立っています。
「誰です? あなたは」
「この森の女神、イシュルタです。宝石をちりばめた、戦車をあげましょう」
「だまされるものか。あんたは人をだます、悪い女神だと聞いてるぞ」
「わたしの言う事を聞かないんですって! ギルガメシュ、どんな事になるか見ていらっしゃい」
怒った女神は、天のお城へのぼっていきました。
「お父さま、ギルガメシュはなまいきなんです。暴れると大あらしと大じしんをおこすウシを、ギルガメシュの前に放してください」
「いけないよ、そんな事は」
「いやです。聞いてくださらないと、わたし、じごくのとびらを開いて、死んだ人たちを放ちますよ」
お父さんの神は、困りました。
「仕方がない。だがウシを放すと、七年も食べ物が出来なくなるぞ」
「大丈夫です。人間の食べ物も、けものたちの食べ物も、たくさんありますわ」
「では、放そう」
見る間に大きなウシが、ギルガメシュとエンキドウに向かって飛び出しました。
「えいっ」
エンキドウは素早くツノをつかんで押し止めると、ウシの首に剣を突き刺しました。
それを知った女神が、二人に怒鳴りました。
「ギルガメシュ、よくも天のウシを殺したわね! はやくウシを返して」
「だめだ。これはもらって帰るよ」
「これからは、悪い考えはおこさない事だね。女神さん」
ギルガメシュとエンキドウは、うちとったウシをかついで森を出て行きました。
二人は、エルクの町につきました。
「王さまたちが、天のウシをうちとってこられたぞ」
「怪物の、フンババの頭もあるぞ」
「王さま、ばんざーい」
「エンキドウ、ばんざーい」
みんなは集まってきて、二人をほめたたえました。
ところがお城に帰って来てから、エンキドウは眠れなくなりました。
「ギルガメシュ、変な夢を見たんだ。神さまたちがぼくたち二人を殺そうとする夢なんだ」
「どうしてだ?」
「神さまの森を荒らしたし、天のウシを殺したからな。二人のうち、どっちかが死ななければならんと怒っていた。そして死ぬのは、ぼくの方だ」
「それなら、ぼくが死のう。エンキドウ」
どっちも、親友を助けたいと思いました。
「うれしいが、ギルガメシュには王さまとしての仕事がある。死ぬのは一人でいい」
エンキドウは親友にほほえむと、そのまま死んでしまったのです。