そのマンゴーの実のおいしさといったら、一度食べたら一生忘れられないほどです。
ある時、サルたちがマンゴーの実を食べにやって来ました。
「ああ、なんてうまい実だろう」
「こんなにおいしい実は、始めてだ」
夢中で食べているサルたちを見て、王さまザルは考えました。
(こんなにうまいマンゴーの実が川に落ちて人間たちのところへ流れていったら、人間たちが取りに来るだろう。それはまずいな)
王さまザルは、すぐにサルたちを集めて言いました。
「川の上に伸びた枝になっている実は、1つ残らず取ってしまいなさい」
「はい、王さま」
サルたちは、さっそく言われた通りにしました。
「よしよし、これで安心だ」
ところがサルたちは、たった1つの実を見落としていたのです。
その実は甘くうれて、ある日ポタリと枝から川へ落ちました。
マンゴーの実は、そのまま人間が暮らしている町まで流れて行きました。
「おや? これはこれは、実に見事なマンゴーの実だ」
漁師(りょうし)はマンゴーの実をアミですくい上げると、王さまのところへ持って行きました。
「ほう、これはすばらしい。こんなにうまいマンゴーは始めてだ」
すっかり気に入った王さまは、家来を引き連れてマンゴーの木を探しに行きました。
いく日かたって、王さまはついにあのマンゴーの木を見つけました。
「あったぞ。すばらしい、あんなに実がなっている」
王さまたちは、急いでマンゴーの木にかけ寄りました。
ところが木のそばまで行くと、たくさんのサルがマンゴーの実をおいしそうに食べているではありませんか。
「王さま、どういたしましょう?」
「むむ、サルのくせになまいきな。矢で撃ち落としてしまえ!」
家来たちはさっそく、サルたち目がけて弓矢を放ちました。
それに気づいたサルたちは、王さまザルのところへ知らせに行きました。
「大変です! 人間たちが、私たちを殺そうとしています」
「あわてるな、わたしにまかせなさい」
王さまザルはマンゴーの木に登ると、飛んで来る矢を長い尻尾と手を使って打ち落とし、仲間のサルたちを助けました。
「さあ、今のうちに逃げなさい」
サルたちは次々に逃げて行きましたが、みんなが逃げるまではまだ時間がかかります。
やがて王さまザルの体に何本も矢が刺さりましたが、王さまザルは頑張って仲間のサルたちを守りました。
それを見ていた人間の王さまは、家来たちに矢を打つのを止めさせました。
「まて、矢を打つのを止めるのだ。それより、あの王さまザルをここへ連れて来なさい」
家来たちは、傷ついて動けなくなった王さまザルを連れて来ました。
人間の王さま、王さまザルにたずねました。
「なぜ自分の体を痛めてまで、仲間を助けたのかね?」
王さまザルは、苦しい息をはきながら答えました。
「わたしは王です。仲間のサルたちを守るのが、わたしのつとめです」
「おお、なんと立派なサルだろう。わたしも見習わなければ」
感動した王さまは王さまザルの手当をしてやると、マンゴーには一切手をつけず、そのまま自分の国へ帰って行きました。
それからはどんな時でも人々の幸せを一番に考える、心やさしい王さまになりました。