朝から晩までおしゃべりばかりしていて、王さまの仕事は何もしません。
「さて、王さまのおしゃべりをやめてもらう、よい方法はないものか」
と、家来たちはこまっていました。
ちょうどそのころ、ヒマラヤの山奥の池に、一匹のかめがすんでいました。
ある日、二羽の白鳥がとんできて、かめと友だちになりました。
「かめさん、わたしたちの家へ遊びに来ませんか? わたしたちの家は金色のほら穴で、とてもすてきなところですよ」
すると、かめが言いました。
「行きたいなあ。でも、わしはお前さんたちと違って、空をとぶことができない」
「大丈夫。わたしたちが、連れていってあげますよ」
「そうか、それならぜひ連れていってくれ」
そこで二羽の白鳥は、一本の棒きれをさがしてきました。
「さあ、この棒きれをしっかりくわえてください。どんなことがあっても、口を開いてはいけませんよ」
「わかった。ぜったいに口を開かないよ」
かめが棒きれをくわえると、二羽の白鳥は一羽ずつその両端をくわえて空へとびたちました。
かめは風をきって、ぐんぐんのぼっていきます。
(わあ、なんて気持ちがいいんだ)
うっとりしていたら、下の方から人間の子どもの声がしました。
「あっ、白鳥が、かめを下げてとんでいるよ!」
「本当だ! かめのくせに、なまいきだ!」
ほかの子どもたちも、空を見上げて言いました。
それを聞いて、かめは腹をたてました。
(わしは友だちの家へつれていってもらうところだ。よけいなことを言いやがって)
かめは白鳥との約束をわすれて、思わずどなりつけました。
「うるさい!」
そのとたん、くわえていた棒きれから体がはなれて、葉っぱみたいにくるくるとまいながら、下へ落ちていきました。
ドッシーーン!
かめの落ちたところは、王さまのいるお城の庭でした。
「なんだ! かめが空から落ちてきたぞ!」
「かわいそうに、背中が割れて死んでしまった」
お城では、大変なさわぎになりました。
王さまもそのさわぎを聞いて、庭へ出てきました。
「どうして、空からかめが落ちてきたのか?」
おしゃべりな王さまは、家来のお坊さんにたずねました。
このお坊さんは偉いお坊さんで、そのわけをちゃんと知っていました。
(いまこそが、王さまのおしゃべりをなおす時だ)
そこで、かめがどうして空から落ちたのか、くわしくわけを話してから言いました。
「いいですか、王さま。このかめは、口をきいてはいけないときにおしゃべりをしたから、こんなことになったのです。やたらとおしゃべりする人は、みんなこのかめのようになってしまいます」
それからというもの、王さまはよけいなおしゃべりをしなくなったということです。