タエはやさしいお父さんとお母さんに見守られて、スクスクと育ちました。
ところがタエが十一歳になった時、お母さんが重い病気になって死んでしまいました。
タエは悲しくて悲しくて、いつまでも泣いていました。
お父さんは、小さなタエが可哀想でなりません。
そこで新しい奥さんをもらうと、タエの世話を頼んで言いました。
「どうか、娘を可愛がっておくれ」
新しい奥さんは、
「もちろんですとも」
と、言いましたが、心の中ではタエがじゃまでたまりません。
「なんで、こんな子のめんどうを見なくちゃならないのかしら。
この子がいなければ、もっと好きな事が出来るのに」
まま母はタエを見るたびに、そんな事を考えました。
ある日、お父さんが遠いところヘ旅に出る事になりました。
「今度は長い間帰って来られないから、くれぐれもタエの事を頼むよ」
お父さんはまま母にそう言うと、心配そうにタエを見ながら行ってしまいました。
「タエを殺してしまうなら、今だわ!」
まま母は、恐ろしい事を思いつきました。
おもちに毒(どく)をまぜて、タエに食ベさせるのです。
「さあタエ、お食ベ。おいしいおもちだよ」
まま母におもちを進められて、タエは変だなと思いました。
ふだんからまま母には、意地悪ばかりされていたからです。
「でも、せっかくお母さまがつくってくれたおもちですもの、うたがっては悪いわ。いただきます」
タエは思い直すと、まま母にお礼を言っておもちを食べました。
毒はあっという間にきいて、タエはその場に倒れて死んでしまいました。
まま母は、タエの死体を家の裏の畑にうめました。
「ここなら、誰にもわからないわ」
それからしばらくたったある日、タエがうめられたところから一本のくきが生えてきました。
そのくきは長くのびて、細い枝と細い葉をつけました。
「あのくきを、わたしにください」
見知らぬ男がやって来て、まま母に頼みました。
まま母はカマでくきを切ると、その男にやりました。
男はくきを受け取ると、笛(ふえ)にして吹き出しました。
すると、こんな音が出てきたではありませんか。
?お父さま、お母さま。
?娘のタエは、殺されたの。
?新しいお母さまに、殺されたの。
?このくきは、わたしの骨の一本よ。
それを聞くとまま母はブルブル体をふるわせて、男を追い払おうとしました。
けれど男はそこらじゅうを走りまわって、笛を吹き続けました。
ちょうどそこへ、長い間旅に出ていたお父さんが帰って来ました。
お父さんは、不思議な笛の音を聞くと、
「これはいったい、どうした事だ?」
と、まま母や近所の人に尋ねました。
やがて本当の事がわかると、お父さんは怒ってまま母を殺してしまいました。
タエがうめられた場所からは、いつも同じ長いくきが生えました。
やがて人々はそのくきをタエ(竹)と呼び、可哀想な娘を思い出すのでした。