天には、かぞえきれないほどたくさんの神さまが、住んでいました。
その神さまたちの中に、たった一人、ほかの神さまの何十ばいも、何百ばい、何千ばいも、何万ばいも大きなからだの、大神さまがいました。
大神さまは、からだが大きいばかりでなく、ほかの神さまの何万ばいも、つよい力をもっていました。
神さまたちがわるいことをしたり、大神さまのいうことを聞かなかったりすると、大神さまは、なん百人もの神さまをひとつかみにして、やっつけてしまうのです。
大神さまにかなうものは、一人もいません。
神さまたちは、いつも大神さまににらみつけられて、働かなくてはならなかったのです。
そこである日、大神さまが雲(くも)をまくらにして昼寝をしているあいだに、神さまたちが集まって、そうだんをはじめました。
一人の神さまが、立ちあがって、
「しょくん、われわれは、朝から晩まで大神のいうとおりに働いていなくてはならない。われわれには、ゆっくり遊んでいるひまもない。これでは、きゅうくつでたまらないではないか。どうだ、われわれが力をあわせれば、あの大きな大きな大神をやっつけることもできるだろう。大神さえやっつければ、われわれは、だれからもしかられずに遊んでいられるのだ。さあ、大神をやっつけようではないか」
と、いいました。
「そうだ、そうだ!」
「大神をやっつけよう!」
おおぜいの神さまが、さんせいしました。
けれども、中には、
「ぼくはいやだ。はんたいだ」
と、いう神さまもいました。
「おい、どうしてだ? きみは大神におさえつけられているほうがいいのか?」
「そうじゃない。大神さまの大きさと力のつよさを考えてみたまえ。ぼくたちがどんなにおおぜい集まっても、ぜったいにかなわないよ。大神さまは、どんなことだってできるのだから。大神さまとけんかしたら、どんなめにあうかわからないぞ。いまのままが、いちばんいいと思うよ」
すると、あっちからもこっちからも、
「なるほど、そうだなあ。やっぱり戦うのはむりだ。ぼくはいやだ」
「ぼくもいやだ。このままでいいよ」
と、いう声が聞こえました。
「なんだいくじなし。大神がこわいのか。大神をやっつけよう」
「だめだ。大神さまに手をだすな!」
「やっつけるんだ!」
「おい、やめろ!」
神さまたちはいつのまにか二つにわかれて、とっくみあいのけんかをはじめました。
そのさわぎで、とうとう大神さまが、おきてしまいました。
大神さまは、神さまたちのあらそいをジッと見まもりました。
そんなこととはすこしも知らずに、神さまたちはむちゅうになって、けんかをつづけました。
どうやら、「大神をやっつけろ!」と、いう神さまたちのほうがつよいようで、「大神さまに、手をだすな!」と、いっている神さまたちが、負けそうになりました。
そこで大神さまは、のっそり立ちあがって、ドシン! ドシン! と、足をふみならしました。
すると雲の下で、カミナリがゴロゴロなり、イナズマがピカピカと光りました。
「しようのない、やつらだな」
と、いいながら大神さまは、
「大神をやっつけろ!」
と、いっていた神さまたちを、ひとまとめにしてつかみました。
「ろくでもないことを考えるやつらは、こうしてくれよう」
と、いって、ペッペッと、つばをはきかけました。
すると、つかまえられた神さまたちは、大神さまの手の中で、たちまちひとかたまりの石になってしまいました。
大神さまは、その石を思いきりけとばしました。
石はビューンと、とんで、空をつきやぶって地上におちました。
おちた石は、こなごなにとびちって山になりました。
ところが、山になった石のかけらの中のほうには、まだ生きている神さまがいました。
「おい、たすけてくれ。こんなところにとじこめたりして、まったくひどい大神さまだ!」
と、いって、神さまたちはまっかになっておこりました。
そのいきおいで、山の中はにえくりかえりました。
ゴーゴー、うなりをたてて、煙や、灰や、岩をはきだして、火山となりました。
火山の中で、神さまたちはなおも、
「ああ、きゅうくつだ、きゅうくつだ」
と、わめいてもがきました。
そのひょうしに、火山からまっ赤な火ばしらがあがり、それといっしょに神さまたちは、火山からふきあげられてしまいました。
神さまたちは、高く高くまいあがって、空にとどきました。
大神さまは、すぐに神さまを空にぬいつけて、星にしてしまいました。
こうなっては、どんなにあばれても、空からはなれることはできません。
神さまたちは、
「こんなことになるとわかっていたら、大神さまをやっつけようとするんじゃなかった」
と、いって、なみだをポロポロこぼしました。
そのなみだがたまって、海ができました。
さからう神さまたちをやっつけた大神さまは、一番下の息子をつかまえて、フッと息をかけました。
すると、人間の男ができあがりました。
「ほら、地上を見てごらん。おまえはあそこでくらすんだよ」
大神さまの息子は、ヒラヒラと地上におりていきました。
「一人では、かわいそうですわ」
と、大神さまのおくさんがいいました。
「心配しなくていい。もう一人つくってやるよ」
と、いって、大神さまはそばにいた、よい神さまをつまみあげて、息をふきかけました。
こうして、女の人ができあがりました。
「おまえは男の人をさがして、二人でなかよくくらすんだよ」
地上についた女の人は、ゴツゴツした岩だらけの地面を歩いて男の人をさがしました。
「おお、かわいそうに。足のうらが、さぞいたかろう」
大神さまはこういって、地面に草をはやし、花のじゅうたんをひろげてやりました。
女の人はたいそう喜んで、花をつむと、空中に花びらをまきちらしました。
すると花びらは、美しい鳥やチョウや、いろいろなムシになって、女の人のまわりをとびまわりました。
女の人は、ズンズンと歩いていきました。
そのうちに、おなかがすいてきました。
「なにか、たべたいわ」
と、いって、女の人が立ちどまると、目のまえの草がグングンとのびて、大きな木になりました。
木には、おいしそうな実がなっています。
女の人は、それをとってたべました。
元気がでると、また旅をつづけました。
そしてようやく、男の人を見つけました。
二人はひとめ見ただけで、好きになりました。
そして手をとりあって、なかよくくらすようになりました。
しばらくすると、
「あの二人は、どうしたろう」
と、いって、大神さまは天に穴をあけて、そうっと大きな頭をのぞかせました。
大神さまの頭はキラキラ光って、地上をてらしました。
「まあ、ごらんなさい、あの光を」
と、いって、男の人と女の人は空を見あげました。
二人はキラキラ光る丸いものに、太陽という名をつけました。
大神さまのおくさんも、地上のことが知りたくて、たまらなくなりました。
そこで、大神さまがのぞいていないときに、そっと穴から顔をだして地上を見ました。
「あのやさしい光を、見てごらん」
男の人と女の人は、空を見あげていいました。
そのやわらかい光に、月という名をつけました。
こうして、大神さまのつくった二人の人間は、やがて子どもをうみ、太陽と月に見まもられて、たのしくくらしはじめたのです。