お百姓がメスウシを連れて町へ行くと、ある町角で一人の男に出会いました。
「これは良いウシですね。どうです、このナベと取り替えませんか?」
「と、とんでもない。わしはお金が欲しいのです。こんな汚い鍋なんかもらっても」
その時、鍋が突然しゃべりました。
「いいから、わたしをもらっておけ。絶対に良い事があるから」
そこでお百姓は、メスウシと鍋を取り替えて家に帰りました。
それを知ったおかみさんは、カンカンになって怒り出しました。
「あんたは、何を考えているの! こんな鍋なんか、何の価値もないじゃないの!」
「しかし、この鍋はしゃべるんだよ」
「鍋がしゃべる? うそをおっしゃい!」
するとその時、鍋が歌う様にしゃベり出しました。
「おかみさん。わたしをきれいにしておくれ。そして火にかけておくれ」
「おや? 本当に鍋がしゃべったよ。確かにこれは、役に立ちそうだね」
機嫌を治したおかみさんは、すぐにナベをピカピカに磨いて火にかけました。
するとナベは、ピョンと火から飛び降りて、
「飛んでく、跳ねてく、金持ちさんちへ」
と言いながら、ピョンピョン家を出て行きました。
その頃、金持ちの家では奥さんがプリンを作ろうとしていました。
そこへ鍋が飛び込んで来たので、奥さんは、
「これはプリンを作るのに、ちょうど良い大きさの鍋だわ」
と、材料を鍋に入れて、火の上にかけました。
すると鍋は、ピョンと火から飛び降りて、
「飛んでく、跳ねてく、お百姓の家へ」
と言いながら、ピョンピョン帰って行きました。
こうしてお百姓さん夫婦は、鍋のおかげでおいしいプリンをお腹一杯食ベる事が出来ました。
さて次の朝、鍋はまた、
「飛んでく、跳ねてく、金持ちさんちへ」
と、家を飛び出して、また金持ちの家へやって来ました。
金持ちの家では、お手伝いの人たちが納屋(なや)で麦を叩いていましたが、そこへ鍋がやって来たので、
「これは麦を入れるのに、ちょうど良い大きさだ」
と、一袋の麦を鍋に入れました。
ところが鍋は、なかなか一杯になりません。
そして麦をどんどん入れていくうちに、納屋にあった麦が全部入ってしまいました。
すると鍋は、
「飛んでく、跳ねてく、お百姓の家へ」
と言いながら、ピョンピョン帰って行きました。
お百姓夫婦は、鍋が運んで来た麦を見て大喜びです。
「ありがたい。これだけあれば何年も麦に困らないぞ」
さて三日目の朝、また鍋は、
「飛んでく、跳ねてく、金持ちさんちへ」
と言って、、またまた金持ちの家に行きました。
金持ちの家では、主人が金貨を数えていました。
そこへ鍋が飛び込んで来たので、
「これは金貨をしまっておくのに、ちょうど良い大きさだ」
と、主人はさっそくテーブルの上の金貨を鍋に入れて、戸棚にしまおうとしました。
すると鍋は、するりと抜け出して、
「飛んでく、跳ねてく、お百姓の家へ」
と言いながら、ピョンピョン帰って行きました。
お百姓夫婦は、金貨を見てビックリ。
「これだけあれば、一生楽に暮らせるわ」
お百姓夫婦は鍋をていねいに磨いて、棚にしまいました。
さて次の日も、鍋は金持ちの家へ行きました。
すると、それを見つけた主人は、
「この魔法の鍋め。プリンと麦と大事な金貨を、一つ残らず返せ!」
と、鍋に飛びつきました。
すると不思議な事に、鍋は主人の体にピッタリとくっついてしまったのです。
主人がいくら暴れても、鍋は離れません。
鍋が、言いました。
「飛んでく、跳ねてく」
「ええーい。どこへでも飛んで行け!」
「分かった」
そこで鍋は金持ちの主人をくっつけたまま、遠くへ遠くへ飛んで行ってしまい、二度と帰っては来ませんでした。