この人魚は五頭のウシを飼っていて、とても大事にしています。
ある日、人魚はウシを近くの島まで連れて行って、お腹がいっぱいになるまで草を食べさせてやりました。
その様子を、この島に住むいじわるな人間たちが見ていました。
「おい、人魚だぞ」
「ああ、人魚のくせにウシなんか飼いやがって」
「どうだ、あのウシを取ってしまわないか?」
「いいな。しかしウシよりも、人魚が腰にまいている帯(おび)を手に入れないか? あの帯には、宝石がたくさんついているという話しだ」
そこで人間たちはウシに近づくと、人魚からウシを取り上げてしまったのです。
「わたしのウシを、返してください!」
ウシを取られた人魚は、泣いて人間たちに頼みました。
「返すもんか。???でも、お前が腰にまいている帯(おび)をくれたら、ウシを返してやってもいいぞ」
「帯を? だけどこの帯は、人魚だけしか使うことが出来ないんです。人間が持っていても、少しも役に立たない帯ですよ」
「うそをつくな! その帯には宝石がたくさんついているじゃないか。その宝石があったら、おれたちは大金持ちになれる。さあ、ウシを返してやるから帯をよこせ!」
人魚はウシをとても可愛がっていたので、仕方なく帯を人間たちに渡してウシを返してもらいました。
でも、なんだかくやしくてたまりません。
そこで人魚は、ウシに言いました。
「さあ、砂をほって、いじわるな人間たちにしかえしをしてやりなさい」
するとウシたちは、砂を角や足でほりはじめました。
すると砂が風でまいあがり、いじわるな人間たちの住んでいる村へと飛んでいきました。
「さあ、もっと砂をほって、人間たちの家をうめてしまいなさい」
人間たちの村に飛んでいった砂は、どんどんどんどん降りつもり、やがて人間たちの家をうめてしまいました。
あわてて逃げ出した人間たちは、
「ふん! ちっぽけな家ぐらい、なくなったってかまうものか! こっちには宝石のいっぱいついた帯があるんだ。これがあれば、大きな城だってたてられるさ」
と、ニコニコ顔です。
でも、人魚から取りあげた帯をよく見てみると、宝石など1つもついていません。
いつの間にか帯はコンブに変わっていて、宝石は海で岩などについているフジツボに変わっていたのです。