そのホジャおじさんのとなりに、おせっかいやきで、人の事にうるさく口出しをするお金持ちの商人がすんでいました。
ホジャおじさんは、いつかその悪いくせをなおしてやろうと考えていました。
ある日、ホジャおじさんは、
「神さま、どうかこのホジャめに、金貨をおさずけください。それも、きっかり百枚です。一枚でも足りなければいりません」
と、わざと大声でおいのりをはじめました。
思った通り、となりの商人がこれを聞きつけました。
「よし、ホジャをからかってやろう」
商人は九十九枚の金貨を袋に入れて、ホジャおじさんの家の庭へなげこみました。
「おや? おおっ! これは金貨ではないか! ありがたい、神さまはさっそく願いを聞き入れてくださった」
ホジャおじさんは、さっそく袋の金貨を数えはじめました。
「???九十七、九十八、九十九、おや、一枚足りないぞ」
となりの商人はニヤニヤしながら、ホジャおじさんがどうするかのぞきこんでいます。
「うーむ、きっかり百枚はないけれど、神さまの事だ。そのうち残りの一枚もくださるだろう」
ホジャおじさんは、金貨の袋を持って家へ入って行きました。
あわてたのは、商人です。
さっそくホジャおじさんの家へ、かけこみました。
「ホジャ、お前が今ひろった金貨は、冗談のつもりで、わしがなげこんだのだ。返してくれ」
「え? そんな金貨なんか、知りませんよ」
商人がいくら頼んでも、ホジャおじさんは返してくれません。
「ようし、それなら裁判所にうったえ出てとり返すが、それでもいいのか!」
「いいですとも、どうぞお気のすむように。でも、わたしは貧乏だから、裁判所にきて行く着物を持っていない。それに、あんな遠くまで歩いて行くのはごめんですね」
そこで商人はしかたなく、ホジャおじさんのために、きれいな着物とロバをかしてやりました。
さて、裁判がはじまりました。
商人は、裁判官に頼みました。
「裁判官さま。どうか、わしの金貨をとり返してください」
「この商人の言うことに、間違いないのか? ホジャ、そちの言い分は?」
「はい、その男の言うことはでたらめですよ。考えてもみてください。今どき、百枚近い金貨を、わけもなくくれる人がどこにいるものですか。それにその男ときたら、今わたしが着ている着物も、自分の物だと言いはるようなやつで」
「何を言うか! その着物はわしのものじゃ!」
「ほらね。そのうちに、わたしが乗ってきたロバも、自分のものだって言い出しますよ」
「なにをいう、あのロバは、わしのものだ!」
このやりとりを見て、裁判官が言いました。
「なるほど、これはひどいうそつきだ。この商人の言うことは信用できん。よって、金貨はホジャの物とする」
「そっ、そんなー」
商人は裁判に負けて、しょんぼり家へ帰って行きました。
次の日、ホジャおじさんは商人に、ロバも、着物も、金貨も、全部返してやりました。
それから商人は、二度と人の事に、よけいな口出しはしなくなりました。