ある日、五人の息子がいるお母さんが、六人目の息子マウイを生みました。
ところがマウイがとてもみにくかったので、お母さんはマウイを海へ投げすててしまったのです。
でもそれを見ていた神さまたちが、マウイを助けて大切に育てました。
神さまたちはマウイに、いろいろな力と知恵(ちえ)をさずけました。
マウイは大きくなると神さまたちにお願いして、自分の家に帰してもらいました。
そして人間がとても貧しい生活をしているのを知って、自分の力と知恵で人間の生活を良くしてやろうと思いました。
まずさいしょにマウイは五人のお兄さんたちに、さかなをつきさすモリの作り方やウナギをとるワナのかけ方を教えました。
こうして食べ物がたくさん取れるようになり、人間の食事はゆたかになりました。
マウイは大きな仕事を、一つ行いました。
しかし食べ物がたくさん取れるようになると、人間の数がどんどんふえていきます。
でもここは小さな島なので、みんなは住むところにこまりました。
そこでマウイは女の人のあご骨でつり針をつくって、海にしずんでいる島をいくつもつりあげたのです。
その中の一つはとても大きな島だったので、つりあげる途中で二つにわれてしまいました。
その島が、今のニュージーランドです。
マウイは、二つ目の大きな仕事をしました。
そのころ、お日さまは今よりもすごいはやさで動いていました。
日のあたる時間が短いので、作物があまり育ちません。
そこでマウイはお母さんに丈夫ななわを作ってもらい、おばあさんにつえをもらうとお日さまののぼる東にむかいました。
マウイが東で待っていると、お日さまがキラキラかがやきながらのぼってきました。
マウイは持ってきたなわでお日さまをつかまえると、そのはしを木に結びつけてお日さまが動けないようにしました。
それからおばあさんのつえで、お日さまをビシバシたたきました。
「どうだ、お日さま。もっとゆっくり動くと約束をするのなら、たたくのをやめてやるぞ」
お日さまは痛くてたまらないので、これからはゆっくり動くと約束しました。
こうしてお日さまは今のようにゆっくり動き、作物がよく育つようになったのです。
マウイは、三つ目の大きな仕事をしました。
さてこの頃の人間は、火というものを知りませんでした。
マウイは神さまたちから地面の底の悪魔が火を持っていると聞いていたので、マウイは地面の底にもぐっていって悪魔に火をわけて欲しいと頼みました。
しかし悪魔は、火をわけてくれません。
そこでマウイは悪魔をやっつけて、悪魔から火を手に入れたのです。
マウイは、四つ目の大きな仕事をしました。
マウイのおかげで人間たちは食べ物をたくさん手に入れる事が出来、大勢の人間が住む大地が出来て、作物がよく育ち、暮らしに必要な火を使えるようになりました。
人間の生活は少しずつ神さまに近づいていきましたが、しかし人間は神さまたちと違って年を取ったり病気になるとすぐに死んでしまいます。
そこでマウイは永遠の命を持っている、月の女神のところへ行きました。
月の女神の前に行ったマウイは、月の女神にお願いをしました。
「どうか人間たちに、いつまでも生きられる力をあたえてください」
ところが月の女神は、マウイの言葉を聞いて怒りました。
「食べ物が増え、住む場所が増え、作物がよく育ち、そして火も手に入れた。この上、永遠の命まで手に入れようというのか!」
月の女神はマウイをつかまえると、口を大きく開いてマウイをのみ込んでしまいました。
こうしてマウイは死んでしまいましたが、人間はマウイのおかげで今の暮らしを手に入れたのです。