たくさんの子どもをかかえたクモは、食べる物がないのでやせていくばかりです。
ある日、クモはゾウの王さまのところへ出かけました。
「王さま。
わたくしは、川の中に住むカバ王のお使いでまいりました。
あちらには、さかなはすてるほどございますが、ケーキを焼くムギがございません。
そこでほんの百カゴばかり、ムギをゆずっていただけないでしょうか。
カバ王はお礼に、カバ王の一番立派なウマを差し上げたいと申しております」
「よし、カバ王の頼みは引き受けた」
ゾウ王はさっそく家来のゾウたちに、百カゴ分のムギを運ばせました。
最後のゾウがカゴを運んでくると、クモはゾウたちに言いました。
「みなさん、あとはわたしが引き受けました。どうか帰って休んでください」
ゾウたちが行ってしまうと、クモは大急ぎで家ヘ帰って妻や子どもたちをよび集め、ムギを一粒残らず自分の家へ運んでしまいました。
次の日、クモは川の中にある、カバ王のお城へ行きました。
「王さま。
わたくしは、陸のゾウ王のお使いでまいりました。
ゾウ王のところにはケーキを焼くムギはいくらでもございますが、スープに入れるさかなが一匹もありません。
そこでさかなを、百カゴほどいただけないでしょうか。
ゾウ王はお礼に、ゾウ王の一番立派なウマを差し上げたいと申しております」
「よろしい。ゾウ王の頼みは引き受けた」
カバ王はさっそく、家来のカバたちに百カゴのさかなを運ばせました。
最後のカバがカゴを運んでくると、クモはカバたちに言いました。
「みなさん、あとはわたしが引き受けました。どうか帰って休んでください」
カバたちが行ってしまうと、クモは大急ぎで家ヘ帰って妻や子どもたちをよび集め、さかなを一匹残らず自分の家へ運んでしまいました。
これだけあれば、もう一生食べ物に困ることはありません。
たくさんの食べ物を手に入れたクモは、それからせっせとお尻から糸を出して、妻や子どもたちと一緒に長い長いつなを作り始めました。
さて、それから数日後、ゾウ王がクモを呼び出しました。
「クモよ、カバ王がウマをくれるという約束を、忘れてはいまいな」
クモは出来たばかりの長い長いつなの片方を差し出すと、ゾウ王に言いました。
「はい、どうかご安心ください。ちょうどウマをお届けしようと思っていたところでございます。しかしカバ王のウマは大変力が強く、なかなかここにお連れすることが出来ません。申し訳ありませんが、カバ王のウマをこのつなの先につなぎますので、明日のお昼ちょうどに、このつなを引っ張ってもらえませんでしょうか?」
「なるほど、それほど力の強いウマとはうれしい。よし、明日の昼につなを引っ張るから、しっかりとつなをウマにつなげておいてくれ」
「はい、かしこまりました」
ゾウ王のお城を出たクモは、なわの一方を持ってカバ王のお城へ行きました。
「カバ王さま、ゾウ王から送られるウマの準備が出来ました。しかしゾウ王のウマは力が強くて、なかなかここへお連れすることが出来ません。申し訳ありませんが、このつなの先にゾウ王のウマをつなぎますので、明日のお昼ちょうどに、このつなを引っ張ってもらえませんでしょうか?」
「なるほど、それほど力の強いウマとはうれしい。よし、明日の昼につなを引っ張るから、しっかりとつなをウマにつなげておいてくれ」
「はい、かしこまりました」
次の日のお昼、ゾウ王の家来たちが、つなを引っ張り始めました。
それと同時にカバ王の家来たちも、つなを引っ張り始めました。
「おおっ、カバ王のウマは、なんと力の強いウマだ。がんばらないと、反対に引き込まれてしまうぞ」
ゾウ王がおどろくと、カバ王も驚きました。
「おおっ、ゾウ王のウマは、なんと力の強いウマだ。がんばらないと、反対に引き上げられてしまうぞ」
ゾウ王の家来もカバ王の家来もがんばりましたが、どっちも力は同じでつなを引っ張りきる事が出来ませんでした。
次の日、ゾウ王が家来に言いました。
「こんなに引っ張っても引っ張りきれないというのは、いったいどんなウマだ? ゾウがウマに力でかなわないなどと言う話しは、今まで聞いたことがない。お前たち、カバ王のウマを見てまいれ」
それと同時に、カバ王も家来に言いました。
「こんなに引っ張っても引っ張りきれないというのは、いったいどんなウマだ? カバがウマに力でかなわないなどと言う話しは、今まで聞いたことがない。お前たち、ゾウ王のウマを見てまいれ」
こうしてゾウ王とカバ王の家来たちは、森のまん中でバッタリ出会いました。
ゾウ王の家来が、カバ王の家来に聞きました。
「みなさん、おそろいでどこへ行くのですか?」
「われわれは、あなたがたの王さまから送られたウマがどんなウマか見に行くところですよ。つなを一日中引っ張っても、まだ引っ張りきれないのですからね。ところでみなさんは、どこへ行くのですか?」
「われわれも、あなたがたの王さまから送られたウマを見に行くところですよ」
この話を聞いて、ゾウ王は顔をまっ赤にして怒りました。
「さては、あのクモめがだましたな!」
同じく話を聞いたカバ王も、顔をまっ赤にして怒りました。
「さては、あのクモめがだましたな!」
やがてゾウ王が、カバ王をたずねていきました。
「お互いに、むだなつな引きはやめましょう」
「そうですな。それよりも、あのけしからんクモを見つけて、こっぴどくこらしめてやりましょう」
その頃クモは、ゾウ王からだましとったムギとカバ王からだましとったさかなを食べて、のんきに暮らしていました。
「だけどそろそろ、ゾウもカバもおれの作戦に気づいて、こっちにやってくるだろうな。何とかしないと」
家の外に出たクモは、何か良い方法はないかとあたりを見回しました。
すると道ばたに、病気で死んだカモシカの皮が落ちていました。
それを見たクモは良い方法を考えると、そのカモシカの皮を頭からかぶりました。
やがてゾウ王とカバ王が、クモをこらしめるためにやって来ました。
ゾウ王は、ヨボヨボのカモシカを見つけると声をかけました。
「カモシカよ。クモを探しているのだが、どこにいるか知らないか? あいつはわしとカバ王をだました悪いやつだ」
するとカモシカの皮をかぶったクモが、おびえた声で言いました。
「クモを探すですって?
しーっ、大きな声を出さないでください。
クモに見つかると、とんでもない目にあいますよ。
わたしを、ごらんなさい。
クモとけんかしたばかりに、若い元気なわたしがこのありさまです。
何しろクモが足をわたしの方へ向いたとたんに、体がドンドンとしなびてしまったのですから」
「ほんとうか!」
ゾウ王とカバ王は、おどろきました。
「ほんとうですとも。どんなに力の強い者でも、クモに足をふりあげられたら最後。骨までしなびてしまいますよ。何とか逃げのびたわたしは、運がよい方です」
ゾウ王とカバ王は、おそろしくなって、
「わっ、わかった。クモを探すのはやめた。どうかクモにあっても、わしらの事はだまっていてくれ。たのむ」
と、あわてて逃げていきました。
するとクモは急いでカモシカの皮を脱ぎすて、逃げるゾウ王とカバ王の先回りをしました。
ゾウ王とカバ王の前に現れたクモは、すました顔で言いました。
「もしもし、お二人ともそろって、どうかしましたか? もしかして、わたしを探していたのですか?」
ゾウ王とカバ王は、ガタガタとふるえながらさけびました。
「い、いや、ちがう、ちがう。あっちヘ行け。はやく行ってくれ!」
「まあまあ、そう言わないで。ああ、そうそう、この辺でカモシカを見ませんでしたか? なまいきなカモシカだったので、ちょっとこらしめてやったのですが、逃げられてしまったのですよ」
そう言ってクモは、足をあげるふりをしました。
それを見たゾウ王とカバ王は、悲鳴を上げながら逃げてしまいました。
そしてそれから、ゾウもカバも二度とクモの家には近づかなかったそうです。