ある日、おばあさんが川へ行くと、ワニが声をかけてきました。
「おばあさん、頼みがあるんだよ。泣いてばかりいるうちの子を、うまく寝かしつけてもらえないかね?」
「それなら、まかしといて!」
おばあさんはワニの背中に乗って、向こう岸ヘ渡りました。
なるほど、茂みの中では子ワニが、わんわんと泣いています。
おばあさんは、草をかき分けてかけ寄りました。
「よしよし、可愛い坊やね。安心おし。わたしが来たからもう大丈夫」
おばあさんは子ワニの頭をなでて、さっそく子守り歌を歌い始めました。
?バユーバイ バユバイ。
?子ワニちゃん。
?お眠りなさい。
?可愛い 子ワニちゃん。
おばあさんの歌を聞くと、子ワニはピタリと泣き止みました。
それから、
「フワーーッ。ムニャムニャ???」
と、大きなあくびをして、可愛い寝息(ねいき)をたて始めました。
でもおばあさんは、まだしばらく歌い続けました。
やがて子ワニが、本当にグッスリと眠ったのを確かめて立ち上がりました。
「さて、そろそろ帰るとしましょうか」
すると親ワニが、魚のいっぱい入ったカゴを持って来てくれました。
「ありがとう、おばあさん。お礼に、これを持って帰って」
「これは、ありがたいわ。わたしは魚が大好きなのよ」
おばあさんは大喜びで、またワニの背中に乗り、川を渡って帰りました。
おばあさんが家へ着くと、隣のおばあさんがやって来ました。
「おや、おいしそうな魚だねえ。いったいどこで手に入れたの?」
「川で、ワニにもらったのよ」
おばあさんは、これまでの事を全部話しました。
「へえー、それじゃあ、わたしも行ってみよう」
隣のおばあさんは川ヘ行くと、ワニに向かって言いました。
「さあ、お前の子を寝かせに来てやったよ」
「いえ、子どもはよく眠っているから、けっこうですよ」
「ふん! 子どもなんて、じきに目を覚ますに決まってるよ。さあ、わたしを背中に乗せて連れてお行き!」
無理矢理向こう岸へ渡ったおばあさんは、子ワニを見て顔をしかめました。
「うへー! 何てまあ、汚くて、臭いんだ!」
そして、寝ていた子ワニを足で蹴飛ばしました。
子ワニはビックリして、目を覚ますと泣き出しました。
「ほら、やっぱり泣いただろう」
隣のおばあさんは、横でハラハラしながら見ている親ワニに言いました。
「何をグズグズしているんだい! 早く魚を捕っておいでよ。その間に、子どもを寝かしつけておくからさ」
そして、隣のおばあさんは歌い始めました。
?バユーバイ バユバイ。
?さっさとお眠り 汚い子。
?早くお眠り 臭い子よ。
子ワニは眠るどころか、ビービーと大泣きです。
親ワニは怒って、カゴを差し出しながら言いました。
「これをやるから、もう帰っておくれ!」
隣のおばあさんは、カゴを受け取るとニヤニヤ笑いながら、
「そうかい。それなら、また川を渡しておくれ」
と、言って、またワニの背中にまたがって帰って行きました。
家へ着くと、窓や戸を全部閉めました。
大事な土産物を、誰にも見られたくなかったからです。
そして、いよいよカゴを開いた途端、
「ギャーッ!」
おばあさんは、悲鳴を上げて気絶しました。
カゴの中に大きなヘビが入っていて、シュルシュルと、おばあさんの体に巻き付いたからです。