「天下の政治はどのように行ったらよいと思うか」
それに対し忠興は、
「四角い器に丸い蓋をするようになさいませ」
と答えました。万事几帳面で厳格だった秀忠に、もう少しアバウトになさっては如何と言ったのです。またあるとき、忠興は老中たちが居並ぶ中で、秀忠から、
「人柄のよい人間とはどのような者か」
と尋ねられました。すると忠興はこう答えました。
「明石の牡蠣(かき)のような者をよき人と申します」
老中たちはどういう意味か分からず怪訝そうな顔をしていると、忠興は次のように注釈しました。
「明石の浦は天下一の荒海です。ここで獲れる牡蠣は荒波にもまれて表面がなめらかになっています。人間もそれと同じで、多くの苦労にもまれて角が取れ、よき人柄になるのです」
なるほど、と秀忠ほか列席していた一同は大いに感心したということです。